元軍人の男、愛用の銃を使いこなす

拳銃にさえAIが搭載され厳重に管理されるようになった今、逆にそれを疎み、AIが搭載されていない旧来の規格の拳銃などを愛好する者も少なくないという。


もっとも、AIで厳重に管理できる効能を知ってしまった為政者達には、旧来の規格の銃などを愛好する者は<テロリスト予備軍>にしか見えなかったようで、第三次火星大戦後、すぐさまそれの所持を厳しく禁じる法律の施行を予告した。


加えて、法律が施行されるまでの間に申し出れば、新規格に適合した同等品と無料ないし格安で交換するという<キャンペーン>を行った結果、公的に把握されていた旧規格の銃器についてはすべて回収できたとされている。


しかし、元から非正規のルートで流通していたものについてはそもそも実態が把握できておらず、愛好家達の間で秘密裏に取引され、一部がテロリストにも流れたと見られていた。


そしてその一つが、まさに今、<元軍人の男>が手にしている拳銃であった。製造からすでに百年以上が経過しているそれは、愛好家の手によって丁寧にメンテナンスを受けた上に良好な環境で保管されていたことにより、完璧な動作が実現されていたのだ。


当時としては最高の技術と素材で作られ、最強の拳銃を目指し、四十五口径ながら大型のマガジンを装着すれば五十発をフルオートで発射しても動作不良を起こさないとされている。


もっとも、四十五口径をフルオートで連射するなど、生身の人間が使うにはさすがに非現実的であったため、基本的にはロボット兵士用の装備としての運用が主だったそうだが。


<元軍人の男>は、軍人だった頃に知人を介してそれを入手。愛用していたのだという。ただ、さすがにフルオートでの射撃を試した時にまったく抑えることができなくて狙いが定まらなかったことで、それ以来、使ったことはない。


さりとて、普通に使う分には非常に高い信頼性を誇るその拳銃を、反面、拳銃としては大型で実は必ずしも取り回しが良いとは言い難いそれを、<元軍人の男>は、まるで自分の体の一部のように使いこなしていた。


残ったサーペントの隊員を、正確な狙いで撃ち、近付けさせない。


一方、サーペントの隊員の方も、相手の戦闘力を侮ることなく、慎重に対応していた。<敵>の装備は、拳銃と、おそらく精々ナイフのみ。弾が尽きれば装備の上で格段に上回る自分が勝つことを理解しており、敢えて銃撃戦を挑むことで消耗を狙っているというのもあった。


そして実際、<元軍人の男>が用意していたマガジンは、七発入りがあと一つとなっていたのだった。


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