竜の刺青の男、愉悦する

<竜の刺青の男>は、確実に相手を殺すつもりで攻撃を仕掛けていた。目、耳、こめかみ、鼻、首筋、鳩尾、脇腹、股間といった急所ばかりを狙ってくる。


加えて、腕を掴めば腕の関節を、脚を掴めば脚の関節を、躊躇なく破壊しようとした。


それも、実に淡々と。機械のように。




<竜の刺青の男>は、第三次火星大戦で戦場に立った経験を持つ軍人の両親から生まれた。両親は幼い頃から男に<軍人としての心得>、と言うか、


<確実に相手を殺傷する気構え>


を叩きこんでいったと言った方がいいかもしれない。


両親は、来るべき<第四次火星大戦>に備え、我が子に生き延びる術を授けようとしたようだ。


しかし、前回の第三次火星大戦以降、局地的な紛争やゲリラ活動はあっても、現在までに第四次火星大戦勃発の兆候を窺わせる気配すらなく、<竜の刺青の男>は、両親から叩きこまれた技術と気構えのやり場を見付けられずにいた。


軍にも入ったものの、訓練中に組手で上官を絞殺。止めに入った別の上官にも睾丸破裂の重傷を負わせる事件を起こした。その、上官一名を死亡させさらに上官一名に重傷を負わせた件については、上官側にも不必要で過剰な訓練を強要した等の過失があったとして禁固五年の有罪判決で済んだものの軍からは<不名誉除隊>の処分を受け、以降、再就職などの面で大きな不利益を被り、満足に仕事にも就けなくなった。


仕方なくゲリラに参加しようとしていたところで<サイボーグの男>と出会い、意気投合。共にテロリストへの道を選ぶことに。


なのでこの<竜の刺青の男>にとっても、<人類の夜明け戦線>や<人類の夜明け戦線R(リベンジ)>の理念などは基本的にどうでもよく、ただ自身の、


<生きる意味>


さえ見付けられればそれ以外は関心はなかったようだ。


そして男は、今、自身の持ちうる技能のすべてを使い、この<正体不明の相手>を倒すことに全力を注いだ。


相手の目を狙って親指と人差し指を突き出すと、相手は額でそれを受けつつ<竜の刺青の男>の脇腹に掌打を放つ。が、<竜の刺青の男>もそれに反応、自ら横っ飛びすることで衝撃を緩和。と同時に相手の手首を掴みそのまま関節を極めて折ろうとした。


しかし相手も関節を極められる前に腕を鋭く回転させてこれをほどき、逆に<竜の刺青の男>の目を狙って親指を突き出してきた。こちらも容赦がない。


すると<竜の刺青の男>の口元には、いつの間にか笑みが張り付いていた。


明らかに愉悦の笑みであった。


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