ナニーニ、人間達を見る

そうして千堂京一せんどうけいいちと三十分ばかり散歩して、二人は駐車場へと戻ってきた。すると、刑事が覆面パトカーから降りてきて、


「家宅捜索令状が発行されました」


覆面パトカーに備えられた専用のプリンターで印刷された<家宅捜索令状>を手に、声を掛けてくる。今は、捜索令状も電子化されているものの、一応はこうして紙に印刷し提示するのが通例となっている。


手続き上は、電子的に発行されたものを提示すればいいのだが、紙の令状を提示された方が納得する者が多いのだと言う。


それが事実かどうか千堂は知らないが、現場の刑事がそう言うのならそういうものなのだろうとは、思う。


こうして四人は再び、<もてぎ荘>へと向かった。今度は<家宅捜索令状>があるので、強制的に踏み込むことも可能である。そのための<応援>もこちらに向かっている。家宅捜索令状を示してもなお抵抗する者も中にはいるからだ。


千堂やアリシアは、正直、そのような強制的なやり方が好ましいとは思えないものの、二人は司法手続きの専門家ではないので、口出しはしない。


しないが、あの女性がこれでさらに意固地になってしまう可能性については、考えずにいられなかった。


と、四人が<もてぎ荘>の出入り口である<ふぁっしおん・もてぎ>に辿り着いた時、


「え? ナニーニ……?」


アリシアが小さく声を上げた。見れば、確かにナニーニが<ふぁっしおん・もてぎ>へと入っていく。


ここもナニーニのいつもの<巡回路>に含まれていたということか。


それに続くようにして、刑事がまず、入り口をくぐった。けれど、


「また来たのか! もう来るなと言っただろうが!」


怒声と共に、何かが刑事達に叩きつけられる。


非常に小さな、そして大量の、結晶の粒。


<塩>だった。塩が投げつけられたのだ。


実はもうこれだけでも<公務執行妨害>として対処することも可能なのだが、さすがに刑事達もそこまで強硬な手段は取りたくないらしく、ただ耐えていた。その上で、


「持木さん。我々は<家宅捜索令状>をお持ちしました。これを提示の上、捜査への協力をお願いに上がったんです。協力していただけないのであれば、我々は令状に基づいて捜索を実行しなければなりません。ご協力をお願いします」


と告げる。だが、大家の女性も、当然のように承服できない。


「はあ!? 今度は強制ときたか! お前らは本当にどこまでも汚い!」


ひたすら声を荒げる。


すると、店内の隅にふてぶてしく佇むナニーニが、そんな人間達の様子を、ただじっと見詰めていたのだった。


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