桜井コデット、感謝の気持ちを伝える

飴玉という<ナニーニ捜索の報酬>を受け取ったアリシアは、それを握り締め、さらにその手を抱き締めるようにして胸にやった。


ちっぽけな飴玉がとても大きく重く感じられて、自分が満たされるような気がしてしまう、なんとも言えない不思議な感覚。


些細な<ごっこ遊び>でありながらここまで真剣に行ってきたことを、コデットが本気で感謝してくれているのが分かるからかもしれない。


そう。<遊び>だ。ここまでの様子からも、コデットがナニーニのことは心配しつつそれがどこまでのものかと言われれば、<友達との約束>の方が上だというのも紛れもない事実だろう。『家族の身を案じてる』などといったものに比べても、優先度は確実に低い。


それでも、彼女はこうして数時間を費やしてナニーニを探した。そしてアリシアは、そんな彼女に誠実に付き合ってくれた。そのことが嬉しかったのだろう。


このこと自体は、ロボットなら当たり前の対応だった。ロボットは人間を軽んじない。見下さない。蔑まない。命じられれば、法に触れるような行いでもない限りどんなにくだらないことでも徹頭徹尾確実に完遂する。するのだが、普通のロボットの場合、もっと淡々とした対応なのだ。表面上は愛想良くしていても、そこに<心>はない。<感情>はない。<想い>はない。それを察してしまって<ある種の虚無感>を抱く人間は一定数いるという。対して、アリシアの振る舞いは、人間のそれとしか思えなかった。本当に人間として真剣に付き合ってくれたように感じられた。


途中でコデット自身が友達と遊びに行ってしまったので実質的には二時間程度ではありつつ、<子供にとっての二時間>と<大人にとっての二時間>は違う。コデットが生きてきた時間のうちの二時間と、四十歳の大人が生きてきた時間のうちの二時間とでは、比率で言えば約四倍の差があるからだ。その貴重な時間を費やす価値がコデットにはあって、アリシアがこうしてしっかりと付き合ってくれたことに、彼女は感謝しているのだ。


その真っ直ぐな感謝の気持ちが、アリシアにとっても大きかったのである。




「ばいばーい! 探偵さん!」


家に帰るために去っていくコデットを見送り、アリシアは彼女の姿が見えなくなるまで手を振った。


別れは切なかったが、秀青しゅうせいとの偶然の再会などもあり、これが<今生の別れ>というわけでもないのは感じられて、まだ落ち着いてはいられた。


そして、不思議と晴れ晴れとした気分で、アリシアは、帰路についたのだった。


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