千堂アリシア、<気持ち>を受け取る

こうして、ナニーニの姿を確認したアリシアは、その映像を記録し、すぐにコデットの携帯端末に送信できるように用意し、彼女との待ち合わせ場所へと急いだ。羊羹については、コインロッカーに入れに行く時間もなかったので、そのまま持って行くことにする。


そうして待ち合わせ場所に戻ったアリシアだったものの、四時になっても、コデットは現れなかった。


子供は、何かに夢中になると、それ以外のことが意識から抜け落ちてしまうことは珍しくない。事実、ナニーニのことを気にしたがゆえに、コデットは、友達との待ち合わせを、まったく悪気なく失念していたりもした。


そういうものだ。


ただ、もし、このまま会えなかったとすれば、それは非常に残念だとも思う。敢えて住所などは聞かなかったことで、アリシアの方からコデットの家を訪ねることもできない。


これについては、そもそも、ロボットであるアリシアが業務などの場合を除いて勝手に住所などを尋ねることもできないという面もあるが。


四時十五分。


いよいよ時間的に押し迫っていて、アリシアも諦めかけていたその時、


「あ……」


彼女の聴覚センサーに捉えられる音。聞き覚えのある足音と呼吸音。そして、


「探偵さん…!」


掛けられた声に振り返ると、ピンクのワンピースをまとった少女の姿。


「ごめんね! 遅くなって」


ちょっと悪戯っぽく笑いながら、詫びてくる。


「いいえ、またお会いできて嬉しいです」


アリシアも笑顔で返した。それから、


「ナニーニを見付けましたよ。映像を見ますか?」


単刀直入に用件を伝える。


「ホント!? 見たい見たい!」


弾むように声を上げるコデットに、


「それでは、携帯端末を出していただけますか」


告げると、


「分かった! はい!」


ストラップで首から提げたそれを差し出してくれる。そこに、アリシアは自身が記録した映像を送信。ナニーニの姿が映し出され、


「おーっ! ナニーニ!」


満足げなコデットの歓声。


「どうでしょうか? 満足していただけましたでしょうか?」


アリシアのとの問い掛けにも、


「余は満足じゃ!」


両手を腰に当て、上体を逸らし、<ドヤ顔>で応えてくれた。


「では、これにてご依頼は完了ということでよろしいでしょうか?」


「うん! ありがとう、探偵さん!」


満面の笑顔を向けてくれるコデットに、アリシアも笑顔になる。


『ああ……この笑顔こそが、何よりの報酬ですね』


なのにコデットは、


「はい! 依頼料!」


そう言ってワンピースのポケットから取り出した飴玉を差し出してくる。


『あ、いえ、私はそういう形で報酬を受け取るわけには……』


と頭をよぎったものの、


「ありがとうございました」


コデットの<気持ち>を、受け取ったのだった。


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