千堂アリシア、和菓子店を訪れる

それから十分ほど歩き、


「ほら、あそこだ。僕は先生と話があるから時間が掛かるし、ここでお別れだな」


秀青しゅうせいがややぶっきらぼうな感じで指差しながらそう言ったが、そこには紛れもなく<彼なりの優しさ>が込められていて、薄情な印象はなかった。


『自分に気遣って待たなくていい』


と彼は言っているのだ。


「はい。ありがとうございました」


深々と頭を下げるアリシアに、


「ああ、ああ、そういうのはいいよ。俺とお前は友達だろ。友達にそんな謙るのはおかしいしな」


ロボットの自分を『友達』と言ってくれる彼に、


「はい。そうですね♡」


アリシアも素直に笑顔で応えた。


こうして<先生>の家に迎えられる秀青しゅうせいを見送った後、アリシアは和菓子店を訪れた。


「いらしゃいませ」


その和菓子店は、ここまでの<店>の中で最も丁寧で朗らかな接客だった。店員は若い女性で、人間だ。と同時に、店の奥で作っている和菓子を運び、店に並べるのはどうやらロボットの役目らしく、千堂アリシアの外見と同じ<アリシア2234-HHC>と、バリエーション機の<アリシア2121-HHS>が稼動していた。


<アリシア2121>と言えば、<クイーン・オブ・マーズ号事件>で、千堂アリシアと共に<火星史上最凶最悪のテロリスト、クグリ>と戦った<アリシア2121-GIN>のことが思い出されるが、あちらは要人警護仕様機であるのに対して、こちらは一般仕様機だった。


以前の型ではあるものの、一般仕様機としては基本的な性能はそれほど劣るものでもなく、現在でも多くが稼動している。


そして、人間の店員も、ロボットであるアリシアが訪れたことに対しては驚かなかった。ただやはり、彼女がジャージを着ていたことについては、『えっ!?』という表情にはなったが。


それでもさすがに露骨に怪訝そうな表情をするでもなく、


「こちらの羊羹をお願いします」


と告げるアリシアに、


「こちらですね。ありがとうございます」


笑顔で応対してくれた。基本的には相手がロボットだからといって、横柄な態度をとるような店員はそれほど多くない。


まったくいないわけではないものの、ロボットはあくまで<人間の代理>として訪れているに過ぎず、その際の映像や音声は記録され、主人である人間が確認することもできるというのもあり、当然、店員の態度などについても店そのものの評価に繋がるので、疎かにはできないのである。


まっとうな感性を持つ社会人であれば。


それにロボットは、感情に左右されることなく、相手が店員であっても丁寧に接してくれるため、人間自身が客として訪れるよりも穏やかな気持ちで接客できると考える者も少なくなかったのだった。


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