桜井コデットの母、アリシアを信じる
「まあ! ロボットの探偵さん?」
コデットの母親とおぼしき女性は、驚いたように声を上げた。
その様子も、決して訝しむそれではなく、ただ感心しただけのものであるのが、表情や呼吸や心音から、アリシアには分かる。
「あ、はい。恥ずかしながら、そういうことになっています」
照れたように頭を掻きながら、アリシアもそう応える。
そんな彼女に、女性は改めて丁寧に頭を下げて、
「この子をよろしくお願いいたします」
と告げ、
「ごめんなさい、買い物に行かなきゃいけないから、失礼します。タイムセールが始まっちゃう」
携帯端末で時間を確かめ、何度も頭を下げながらそそくさと歩いていった。娘がロボットと一緒だということで、安心したようだ。
ロボットなら必ず守ってくれると分かっているのだろう。
実際、ロボットは、人間を必ず守ろうとする。それこそ何があっても。壊れても修理が可能な自分を盾にしてでも。
自身に内蔵されたバックアップストレージやクラウドサーバーにデータがバックアップされるので、たとえボディが修理不可能なほど破壊されたとしても、新しいボディにバックアップとして残されたデータをインストールすればそれで済むのだから。
千堂アリシア以外のロボットは、であるが。
彼女が得た<心|(のようなもの)>は、彼女のメインフレーム内に生じた無数の断片化ファイルの偏在が奇跡のようなバランスを取ったことで生じたものであり、バックアップとして取られたデータを別のボディにインストールしても、今の彼女が再現されることはないがゆえに。
それでも、千堂アリシアも、他のロボットと同じように、何があってもコデットを守ろうとすることに変わりはない。
コデットの母親は、ロボットが人間を必ず守ろうとすることを知っているということだ。
無論、全ての人間がそこまでロボットを信用しているわけではないのも事実。中には、ロボットを全く信用しようとしない人間もいる。基本的にこの地域にはそういう人間が多いのだろう。だからこそ、警察用のレイバーギアの配備が限定的なわけで。
とはいえ、全員が全員というわけでもなく、普通に信じている者ももちろんいる。
いずれにせよこれで保護者公認という形にもなり、後は事故がないようにアリシアがコデットを守ればいいというだけの話だ。
手を振りながら去っていく母親を見送り、角を曲がって姿が見えなくなると、ナニーニの捜索は再開された。
ただ、ロボットであるアリシアが<ジャージ姿>であることに対して一言もなかったのは、何と言うか、動じない人物であるということなのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます