千堂アリシア、身構える

『コデットちゃん、また猫さんを追っかけてるの?』


母親にそう問い掛けられて、


「うん! ナニーニがね、こないから」


「あら、そういえばそうね。どうしたのかしら?」


なにやら、<牛だるま>の店員女性との話ではいかにも、


『ナニーニの来訪に迷惑していてそれで安物の猫缶しか出さない』


的な印象を受ける内容だったものの、母親本人を見ると、とてもそういう風には思えなかった。


すると、コデットが、


「ママがやっすい猫缶しかあげないから飽きちゃったんじゃないの?」


なんとも歯に衣着せぬストレートな物言いを。


『はわわ…っ!』


これにはアリシアも焦ってしまう。何しろ、こういう言い方をして親の逆鱗に触れ、感情的にさせてしまった事例はそれこそ数限りなくある。その場で暴力事件に至った例も少なくない。だからアリシアも、万が一の事態には身を挺してコデットを守らなければと身構えた。実際に凶器を手にしたり暴力行為などが確認されないかぎりは危機対応モードにさえ入れないので、標準仕様のアリシアシリーズと同等の動きしかできないが。


それでも、人間の身体能力は上回っているため、タイミングさえ外さなければ何とか守れるはずである。


けれど、


「あら~、そうだったの? ナニーニちゃん、あの猫缶が好きだと思ったんだけど……」


逆上するどころか、残念そうな様子。


それを見る限りでは、決して疎んでいたのではなく、あくまでナニーニが好きなものを用意していただけのようだ。


『よかった…誤解だったんですね』


<誤解>と言うか<解釈の相違>というかがあっただけだと察せられ、アリシアも胸を撫で下ろした。


「ところで、そちらの方は……?」


コデットの後ろに控えているアリシアに気付いた母親が、尋ねてくる。小首を少し傾げた仕草がどこかあどけなくて、未成年のようにさえ見えてしまう。


<牛だるま>の店員女性の言っていたことは何の根拠もない、無責任極まりないただの<憶測>だったものの、直接それを聞いていたコデットが気にしてもいないところを見ると、気心が知れているからこその<軽口>だったらしい。


人間というのはえてしてこういうやり取りもするので、なおのことロボットには理解できない部分だった。いったい、何の目的でそういうことをするのか。


けれど、悪くない。互いの信頼関係があればこそ成立するそれが、アリシアにもなんだか心地好く感じられた。


そんな風に感じているアリシアを、


「ロボットの探偵さんだよ。一緒にナニーニを探してくれてるんだ!」


コデットが笑顔で紹介してくれたのだった。


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