千堂アリシア、とにかく現状を何とかしたい

まるで体操選手のように美しい姿を見せたアリシアだったものの、さすがに体操の演技をするために作られたわけではないスーツのボトムが耐え切れずに破綻。股間の部分が裂けてしまったところに、『地獄に仏』とばかりに巡り会えた服飾店に、アリシアはコデットと共に駆け込んだ。


表の道路にまではみ出して商品が並べられたその店は、およそ若い世代には訴えかけるものがなさそうなデザインのものばかりという品揃えだった。


果たしてこれで商売になるのかと案じてしまうものの、実際、休日の昼過ぎだというのに一人も客の姿がないものの、この手の個人経営の店は、実は他に事業などを持っていて、こちらはほとんど<店主の道楽>に近い形で経営されているものがほとんどだと言われている。なので、利益などが度外視されている場合も多い。


それでも、今のアリシアにとっては、ファッション性など二の次、とにかく現状を何とかしたいというのが先だった。


この状況にこそ必要と思われる、高い伸縮性を有した<ジャージ>と呼ばれるものが店頭に並べられているのを発見。


彼女は迷うことなくそれを手に取り、やや年齢不詳な、強いパーマがかかった髪を紫色に染め上げた女性に、


「これで!」


と声を上げながら、電子マネーがチャージされたカードと共に差し出した。


すると女性は、愛想笑いをするでもなく、それどころか少し面倒臭そうにさえしつつ、


「はいよ」


商品とカードを続けて決済機にかざし、その上で、


「袋はいるかい?」


これまた愛想なく問い掛けてくる。


アリシアはそれには、


「袋はいりません」


端的に答えた上で、


「あの、試着室を貸していただけますか?」


とも口にする。


それに対して女性は、


「どうぞ、そこだよ」


やはりどこか面倒臭そうに親指で指し示しながら言った。


普通に考えればおよそ商売人としてはありえない態度かもしれないものの、アリシアにそれを気にする余裕はなく、余裕があったところでロボットである彼女が人間の態度を責めるはずもなく、商品とカードを受け取って、すぐさま試着室へと消えた。


その様子を、店主と思しき女性は、やや呆れた様子で視線を送る。


それでもなお、アリシアの方は意識を向けることさえないが。


こうして試着室に入った彼女は、


「はあ…」


ロボットでありながら溜め息を吐きつつ、ボトムが裂けてしまったスーツを手早く脱ぎ、およそ質が高いとは言い難い、だいたいは部屋着としてしか、もしくは一時的な運動で使い捨てるくらいしか使い道のなさそうなジャージの包装を開けて、するりと身に着けたのだった。


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