千堂アリシア、苦笑いを浮かべそうになる
アリシアは、手にした<猫のナニーニの毛>を鼻に寄せ、その匂いを嗅ぐ。人間はおろか犬でももしかすると嗅ぎ取れないような微かな匂いしか残っていなかったものの、嗅覚の感度を最高値にまで上げ、辛うじて匂いの粒子を捉えることができた。その上でさらに、祠の屋根に鼻を近付け、こちらの匂いも嗅ぎ取る。
毛に残った匂いと、それ以外の複数の匂いが嗅ぎ取れる。おそらくナニーニ以外の猫や、カラスなど他の動物と思われる匂いも残されていた。
しかしこれで、<猫のナニーニ>と思しき匂いについては特定できただろう。
「探偵さん、犬さんみたい」
人間ほどすんすんと匂いを嗅ぐ必要はなかったものの、それでも、コデットの目には匂いを嗅いでることが分かってしまい、クスクスと笑顔を見せた。
アリシアも、
「そうですね」
と微笑み返す。
けれどその時、
「おい! お前、そこで何をしている!」
決して『怒鳴る』と言うまでのものではなかったものの厳しく硬い言葉が二人の耳に届いてきた。
ハッと振り替えると、そこには、険しい表情の高齢者の男性が立っていて、二人を睨み付けている。
その声のトーンから、アリシアは、強い不信感を向けられていることを察した。なので、間髪入れず、
「申し訳ございません。私は、
深々と頭を下げつつ、丁寧に応えた。
「地域猫…?」
怪訝そうにそう口にしたので、さらに、
「はい。<ナニーニ>と呼ばれている猫です。お心当たりはございますでしょうか?」
重ねて言葉にした。
すると高齢男性は、
「<ナニーニ>…? 知らんな。地域猫は、皆、好き勝手に名前を付けて呼ぶからな」
決して気を許してはいないのが分かる態度ながらそう応えてくれた。そこにコデットが、
「この猫さんだよ」
アリシアにも見せた携帯端末に表示した写真を、高齢男性にも見せる。男性はその写真を覗き込み、
「ああ、<ブサ>か」
ようやく得心がいった様子を見せ、
「そういや、最近、見かけてねえな。まあ、あいつも歳だからな。死んでるかもしれねえ」
ぶっきらぼうに口にした。けれど、さすがにそれには、コデットが悲しそうな表情になる。
「あ、いや、『かもしれねえ』ってだけで、死んだって決まったわけじゃねえけどな。案外、誰かの家に転がり込んで上手い餌にでもありついてるかもな」
慌てて取り繕うように付け足した。
それにはアリシアもいささか苦笑いを浮かべそうになりつつ、普通のメイトギアは<苦笑い>など浮かべないので、なんとか我慢してみせたのだった。
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