桜井コデット、不機嫌になる
その高齢男性は、デリカシーが足りないだけで決して根っからの悪人でないことは、悲しそうな顔をしたコデットへの態度で察することはできる。
とはいえあまり褒められたようなものでないことも事実だが。
それでも、メイトギアであるアリシアがこの高齢男性を批難することはない。メイトギアを含むロボットは人間を批難も否定もしない。どれほど長く生きようとも人間が完璧になることはないことを知っているがゆえに。
ただ静かに穏やかに佇んでいるだけの彼女に向かってその高齢男性は、
「どうなるかは分からねえが、とにかく、その子が納得するまで付き合ってやんな。ブサは、この先の児童公園も縄張りにしてたから、行ってみるといい」
とだけ告げて、踵を返した。
「ありがとうございます」
遠ざかっていく背中にアリシアは深々と頭を下げる。
一方コデットは、「死んでいるかもしれない」と言われた事が不満だったのか腰に手を当て口をへの字にして高齢男性の背中を睨みつけていた。
アリシアはそんなコデットのことも、丁寧に気遣う。
「あの方がおっしゃったことは、あくまで可能性の一つにすぎません。無事である可能性も十分にあるのですから、私達はそれを念頭に探しましょう」
アルシアのその言葉に、コデットも、
「うん」
と頷いて彼女を見上げた。表情がほぐれているのが分かる。彼女が安堵していることを確認し、アリシアもホッとする。
それから二人は、高齢男性が言っていた児童公園に向かう。コデットも、その児童公園がナニーニの行動半径であることは知っていた。
ただ、まだ怒りが収まらないのか、コデットは、可愛らしい見た目にはそぐわない大股でドスドスという感じの歩き方で、アリシアの前を行く。
一方、アリシアはアリシアでそんな彼女の後ろ姿を微笑ましそうに見ている。確かに怒りは収まっていなくても、それほど強いものでもないことは伝わってくるからだ。彼女の体に触れてバイタルサインを取得すればさらに詳細に確認できるものの、本人の承諾なしにはそれはできない。加えて十五歳以下の児童については、保護責任者ないし法定代理人の承諾も必要になってくる。心音や呼吸音は、触れずとも伝わってくるものの、それを記録することも許されない。実はデータとしては残るものの後から参照することが許されないのだ。許されないが、表情と心音と呼吸音だけでも、かなりのことは分かる。
さらに同時に、アリシアは、周囲の様子を油断なく窺い、ナニーニが姿を見せないかと注意を払っていた。人間と違い複数の対象に同時に均等に意識を向けることができるロボットならではの芸当だった。
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