ジョン・牧紫栗、獅子身中の虫
『お姉さん、大丈夫……?』
大変な事態だったにも拘らず、アリシアの顔を覗き込んだ幼いファリ=ファールの表情は、それこそ普通に遊んでいた幼子のものと変わりなかった。
そんな彼女に、アリシアは、えもいわれぬ気分になる。幼い子供が重大な事態をそうと認識できないことは珍しくないものの、それにしてもこのファリ=ファールの様子は普通じゃなかった。何しろ本人も、直接、この事態に関わっていたのだ。
それなのにこの反応。
典型的な<サイコパス気質>が窺えるものだった。
あくまで、<フィクションの中の演出>に過ぎないことは分かっていても、<R-15>のレーティングが前提になっているのでその点でも問題ないはずなのは分かっていても、やはり気分のいいものではなかった。いかにもな愛らしい表情が、一層、不気味さを際立たせている気さえする。
『私自身は、親しくなりたいと思えない相手ですね……むしろ要注意対象として監視してしまいそうです……』
そんなことも思う。
それが、彼女に搭載されている<AI>としては当然の反応だった。特に今は、<アリシア2234-HHC>を介しているので余計にそう思うのだろう。現在、AIは、
<犯罪を実行はしていないが、その傾向が強いと見做されている者を注意深く見守る役目>
を負わされている。
決して<監視>ではないという建前ではありつつ、そのように解釈されないように注意深く運用はされつつ、
<犯罪抑止の切り札の一つ>
として期待が寄せられているのも事実だった。
ただ、それは、
<超監視社会>
とも言えるものでもあるので、AI排斥主義、ロボット排斥主義が一層先鋭化する危険性もはらんでいるものであることもまた事実。
が、それは今回の件とはあくまで別の話であり、機会があれば改めて触れることもあるだろう。
とにかく今は、サーバー内に仕掛けられていた不正コードによる影響を全て暴くことができたことに加え、それが<ジョン・
「ジョン・牧紫栗か……まさに<獅子身中の虫>だな……」
アリシアが捉えた映像を見て、
ともあれ、サーバーの奥深くに仕掛けられた、それまで確認されていたものに比べても格段に悪質性の高い不正コードも暴くことができ、その意味では、今回、他のサーバーとは完全に切り離した状態で対処したことが結果として正解だったと、
スタッフの間にも、ホッとした空気が広がっている。
けれど、アリシア自身はまったく気分が晴れなかったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます