千堂アリシア、打ちひしがれる
どうやら今回の事態についてはどうやら無事に終えられたとは言え、アリシアの気持ちはまったく晴れなかった。
何しろ、このイベント内でのことは、この後、すべて消去されることが決まっているのだから。
ナニーニも、コデットも、消えてなくなるのだ。
ラウルやゴーディンを救えなかった事実や、ナニーニに人を殺めさせてしまった事実も、それによってなかったことになるとは言え、正直なところ、『それはそれ、これはこれ』という感じだろうか。
確かに、VRアトラクションはただの<作り物>に過ぎない。その中に存在するものは全て現実ではなく、ただの虚構だ。
けれど、<作り物>ということであれば、他ならぬアリシア自身がロボットであり、やはり作り物であることもまた事実。
そう考えると、自身とナニーニやコデット達がどう違うのかが、分からない。
<千堂アリシア>には、分からないのだ。
さりとて、
『フィクションの中の存在を現実の人間と同じように扱え』
というのも違うのは分かっている。人間以外の存在と人間とを同列に扱うのは暴挙であることも理解している。
だからそんなことを主張したいわけじゃない。
それでも、ただ、自身のメインフレームに、たとえようもない負荷を覚えるのもまた事実。
自分には決して答が出せないであろうそれに、アリシアは打ちひしがれるしかできなかった。
「君は本当に素晴らしい職員だ!!」
と。
けれど、彼の言葉では駄目だった。アリシアを癒してはくれなかった。
今はただ、
むしろ、それ以外は何もいらないとさえ思える。
だからアリシアは、自身の得たデータの全てを
<汚染されたメイトギアを隔離するカプセル>
へと封入し、<千堂アリシア>は、アリシア2234-HHCとのリンクを遮断して、<VR課への出向業務>を完了させた。
念の為、不正コードが彼女自身には届いていないことを確認するスクリーニングも受けたが、まったく問題なしと確認され、本日の業務の全てが終了した。
そしてアリシアは、その足で、千堂のいるオフィスへと向かった。少しでも早く彼に会いたくて。
「お疲れ、アリシア。報告は受けてる。本当によく頑張ってくれた。ありがとう」
「千堂様ぁ……!」
出迎えてくれた彼の言葉に、自分を抑えることができず、アリシアは千堂の胸に縋り付いていたのだった。
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