勇者アリシア、初めての痛みに怯む
それは、メイトギアであり、ロボットであり、本来なら<痛み>を知るはずのない彼女が初めて感じたものだった。
腕がもげようと足がもげようと、三十ミリの銃弾が掠めて顔の半分が吹き飛ぼうと感じたことのなかったそれに、彼女は戸惑った。
だが、それが彼女の動きを、一瞬、奪ってしまった。そしてラウルは、それを見逃さなかった。
「死ねえっっ!!!」
そう口にした時には、さらに強力な裂空系の魔術を彼女の顔に向けて放っていた。
『しまった……!!』
自分が致命的なミスをしてしまったことを、マイクロセコンドでアリシアは悟った。全力稼動でももう間に合わないのが分かってしまう。頭をスイカのように切り裂かれて終わるのが。
VRアトラクションである以上、これで致命的なダメージを受けたとしてもただゲームオーバーになるだけで、決して本当に死ぬわけじゃない。セーブは行われているので、<イベント>をやり直せば済むだけだ。けれど彼女は、
『死ぬ……?』
と思ってしまった。直前に感じた<痛み>がそれを意識させたのだろう。
が、ラウルが放った必殺の一撃は、いつまで経っても届かなかった。彼女の頭を切り裂く寸前で、掻き消えていたのだ。
<抗魔術>だった。それも、完全無詠唱の。
『いったい、何が……!?』
そう考えながらも、アリシアは体を回転させ、人間の体なら確実に破裂するように破壊されるであろう一切の手加減のない蹴りを放っていた。
とは言えラウルも、それを寸前で躱し、距離を取る。
アリシアも体勢を立て直すために距離を取りつつ、周囲の状況を確認した。
すると、彼女の視界に、二つの影が。
ナニーニとコデットではない。別の誰かだ。しかも、コデットよりもさらに小さい。
「ジョッシュ!? ファ!?」
思わず漏れたその名。
それは、<ジュゼ=ファート>と<ファリ=ファール>の幼い頃の<あだな>だった。
つい、それを口にしてしまうということは、つまり、
「なんだお前! なんで僕の名を知っている!?」
道の真ん中に、いかにも尊大な態度で仁王立ちになっている少年、
「お姉さん、誰?」
その彼の横で、この緊迫した状況にはまるでそぐわないきょとんとした様子でアリシアに問い掛ける少女、
紛れもなく、七歳と五歳のジュゼ=ファートとファリ=ファールだった。
だからアリシアも察した。ジュゼ=ファートが、ジョッシュが抗魔術で自分を救ってくれたのだと。
けれど、それは同時に、
「邪魔を、するなあっっ!!!」
ラウルにとっては邪魔をされた以外の何物でもなく、容赦のない憎悪を幼い二人に叩きつける。
なのに、当のジョッシュは、
「うるさい! この悪漢が!! 街の平穏を乱す貴様に、僕が誅を下してやる!!」
まるで臆することなく胸を張り、ラウルを見下したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます