ナニーニとコデット、イレギュラーとなる

<ORE-TUEEE!>に限らず、この種のVRアトラクションは、一秒毎にデータのバックアップが取られている。もっともそれは、JAPAN-2ジャパンセカンド社ならではの対応で、一般的には一分毎というのが普通ではある。


もちろん、バックアップといってもデータ全体を保存するというわけではなく、あくまで<差分>を常時保存するという形ではあるが。


とは言え、一秒毎のそれでも、同業他社からは呆れられている面もあるというのに、さらに千分の一秒毎にと言うのだから、地球の日本にルーツを持ち<JAPAN>の名を冠するJAPAN-2ジャパンセカンド社の<サービスに対する執念>は、本当に並々ならぬものと言えるだろう。


が、今はそれはさて置いて、<イベント>の方である。


「二人には、どこか具合の悪いところはありませんか?」


ナニーニとコデットを案じ、アリシアが声を掛ける。


「はい。私はなんともありません」


ナニーニが応え、


「別に、どうもねーよ……」


コデットも視線を逸らしながらもきっぱりと応える。なるほど確かにいつもと変わらない様子に、アリシアもホッと胸を撫で下ろした。


こうして二人が無事であることを確認。仕方ないので、


「取り敢えず街に向かいましょう」


そう言って二人を伴って歩き出した。歩きながら、


「私達は、古代文明が残した魔術の暴発に巻き込まれ、過去へと飛ばされたようです」


と説明する。


「か、過去……? 過去って、<昔>ってことですよね……?」


ナニーニは素直にそう驚いてみせたが、


「はあ? お前、何言ってんだ?」


コデットの方は半信半疑だった。まあ、無理もない。時間遡行は、魔術でさえ適わない<夢物語>というのが、彼女達が生きている時代では常識だった。そういう物語もあるものの、基本的には子供でさえ、


『お話の中だけのこと』


と認識しているくらいなのだ。


「コデット、失礼ですよ…!」


彼女の態度にナニーニはそうたしなめるものの、以前に比べると明らかに言い方は柔らかい。


二人の関係が改善されていることをアリシアは改めて実感した。


それにホッとしつつも、この後のことを思うと、安心ばかりもしていられない。イベントの内容に大きな変化がなければ危険そのものはそれほどではないにせよ、どのような影響があるのかがまず分からないのだ。


何しろ、彼女達の存在は、このイベントにおいては本来、想定されていない。ゆえに果たしてアトラクションが正常に動作するのかも分からないのである。


一抹の不安も覚えながらも、アリシアは街を目指して歩いたのだった。


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