勇者アリシア、愕然とする

今回の一件が、JAPAN-2ジャパンセカンド社内部の人間による犯行の可能性が高まったことで、アリシアは決して小さくないショックを受けていた。


それ自体は最初から予測はされていたものの、状況的に見て『可能性が高まった』というのが悲しかったのだ。


けれど、悲しんでいるだけでは何も解決しない。だからアリシアは、事態の解決に資するために自身にできる最大限の努力をするだけだ。


と、彼女は、ただの草原に立っている自分を認識した。しかし、例の石碑はある。牧場ができる以前に戻ったということを意味していた。


『どうやら無事にイベントは開始されたようですね……』


そう思い、街に向かうために踵を返したアリシアの足が止まる。


「どうして……」


思わずそんな声も漏れてしまった。


なぜなら彼女の視線の先には、このイベントには、本来、登場するはずのない人物の姿があったからだ。


「アリシア様!」


聞き慣れた声が届いてくる。それと、もう一人。


ナニーニとコデットだった。


「どうしてここに……?」


駆け寄ってきたナニーニに問い掛ける。もちろん、彼女にそれが分かると思ってのことではない。つい口に出てしまっただけだ。


だからナニーニも、


「分かりません。気が付いたらここに。何が起こってるんでしょう……?」


不安そうにそう口にする彼女の隣で、


「まったく……また面倒事かよ……」


コデットが忌々しそうに吐き捨てる。間違いなく、つい先ほど別れを告げてきた二人に間違いなかった。


「どういうことだ?」


アトラクション外では、宿角すくすみが職員に確認を求めている。


「分かりません。例の不正コードの影響の可能性があるとしか……!」


モニターしていた職員の一人はそう応えたが、もう一人が、


「アリシアさんがつけているデバイスが、彼女に紐付けされたデータを勝手に参照しています。おそらくその所為で、彼女にとって重要なキャラクターも一緒に転移した形になっているのかも知れません」


ディスプレイに記されたログを確認し、告げる。


「アトラクションの挙動はどうか?」


改めて宿角すくすみが問うと、別室でモニターしていた職員が、


「こちらは問題ありません。ラグの類も確認できません」


との返答が。


「あくまでイベント内での異常か。それは幸いだったが……


データのバックアップを最大に! 万全を期すんだ!」


宿角すくすみの指示が飛ぶ。


他の、通常プレイを行っているユーザーのデータに万が一のことがあっては大変なので、通常は一秒ごとに行われているバックアップを、千分の一秒ごとのそれに変更を命じたのだった。


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