ハートマークの牛、魔術を起動させる

「では、行きます」


アリシアはそう告げて、街の郊外にある牧場に赴き、あの<ハートマークの牛>を見付け、近付いていった。


「!?」


すると牛の方もアリシアに気付き、再び猛然と突進してくる。


けれど、牧場の中にあった<古代文明の石碑>の前を通りがかった時、太陽に照らされた牛の模様が石碑に反射。それにより魔術が起動。


アリシアはそれに巻き込まれ、時間を超越することとなった。


普通に考えればあまりにも荒唐無稽な話ではあるものの、もとよりフィクションとは、現実には有り得ないこと、現実では成しえないこと、現実では許されないことを表現するためにあるものなのだから、荒唐無稽であること自体がむしろフィクションの意義であると言えるだろう。


などと余談はさて置き、次の瞬間には、アリシアは十数年前の過去へと飛ばされた。


飛ばされるはずだった。


が、


「アラート! 不正アクセスを検出!!」


アリシア2234-HHCのボディが、再び、不正なアクセスが行われようとしていることを察知した。同時に、部屋に設置されたファイアウォールも不正アクセスを検知し、ブロックする。ブロックする一方で、不正コードの解析もなされる。


その結果、前回のそれの亜種ではあるものの、あくまで自動生成された範囲のものであることが示される。しかも、よく<闇サイト>と呼ばれるアングラサイトに出回っている簡易なAIによるものであり、この程度であればJAPAN-2ジャパンセカンド社が使用しているファイアウォールは破れない。


もちろん、『それがフェイクであり、油断させて実は』というパターンも想定されているので、油断はしない。


さらにはアリシア自身も解析を行うものの、確かに現在検出されている不正コード以外には見当たらず、その不正コード自体にも、何らかのバックドア的なトラップが仕掛けられていないことも確認している。


『やはり、プロフェッショナルな人物の手によるものではないようですね。それぞれの不正コードの連携も取れていませんし、ネット上で拾ったクラッキングツールを、専門的な知識もなくほとんどそのまま使った感じでしょうか』


と考えた。


しかし同時に、


『ですが、本当にそれだけであれば、最初の段階でサーバーに侵入することも容易ではなかったはずです。となれば、サーバーが用意された段階ですでに何者かがバックドアを仕掛けていた可能性が高いですか……


となれば、内部の関係者による犯行の線が濃厚ということに……』


自身の推測に、アリシアは悲しそうな表情になった。


今回のサーバーは、JAPAN-2ジャパンセカンド社内の、メカトロニクス部門が製造、設置したものであり、記録によれば、製造にあたって外部のパーツの使用も限られていたのだった。


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