コデット、感情を迸らせる
『このまま投降し二度と同じようなことをしないと誓っていただけるのであれば、今回だけは不問にします』
アリシアのその提案に、
「……」
「……」
男達は酷く戸惑った様子で顔を見合わせていた。
けれど……
「……騙されるか! 貴族の言うことなんて全部嘘っぱちだ!!」
一人がそう声を上げると、
「そ…そうだ! そんなことを言ってここを離れれば、すぐに軍隊を差し向けて俺達を虫みたいに踏み潰すつもりだろう?」
「ちくしょう! やっぱりそういうことか! 危うく騙されるところだったぜ!」
「卑怯者の貴族めが!!」
口々に不信感を言葉にした。それは、貴族に対する不信感ももちろんだが、明らかにジュゼ=ファートによる<洗脳>に等しい刷り込みが影響しているのだと窺わせた。
男達は興奮し、異様な目でアリシアを睨み付け、手にした農具を構えた。
するとその時、
「スティール!」
甲高い詠唱がその場を叩く。と同時に、一番前にいた男が手にしていた
コデットだった。コデットがスティールで鍬を奪い取ったのだ。さらに続けて、
「スティール! スティール! スティール!!」
連続してコデットがスティールを使い、次々と男達の<武器>を奪い取ってはナニーニの前に放り出す。
さらに、
「スティール! お前ら……!
スティール! いい加減にしろよ……!
スティール! こいつが……!
スティール! そんなメンドクサイこと……!
スティール! 考えてるワケ……!
スティール! ないだろ……っ!」
何度も何度もスティールを唱えて男達の武器を奪い取りながらコデットは言った。それは彼女が得た実感だった。
コデットもアリシアのことなんて信用していなかった。どうせ貴族の気まぐれで自分をペットにでもするつもりだったんだろうと思っていた。
<珍しい、人間そっくりのサル>
でも飼うつもりで自分を助けたのだと。
けれど、実際にはそうじゃなかった。アリシアは、盗賊だった自分のことを<人間>として扱ってくれた。それまでは誰もそんなことはしてくれなかったのに、アリシアだけが自分を人間だと見做してくれた。
素直に認めるのはまだまだ抵抗があったものの、自分以外の人間がアリシアを罵るのを見ているのが許せなかった。許せなくて、叩きつけるようなつもりでスティールを唱え続けた。
とは言え、これだけ連続して使っては、早々に彼女の魔力は底をつき、立っていることもできなくなってその場に膝を着いてしまった。
そんな彼女を見て、男達は奪われた武器を取り戻そうと動くものの、
「寄るな!」
剣を構えたナニーニの一喝に、足が止まってしまったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます