勇者アリシア一行、村を出立する

男達の大半は武器代わりの農具を奪われ、ゴーレム相手に一歩も引けを取らない戦いをしてみせたアリシアと、まだ少女と言っていい小娘とは言え、気迫のこもった目で睨み付けながら剣を構えるナニーニを前に、完全に気圧されていた。


いくら洗脳に近い刷り込みを受けて気が大きくなっていたとしても、力の差はあまりにも圧倒的すぎるのも分かってしまう。


男達がそうやって動くに動けないでいると、さすがに騒ぎに気付いて馬車の乗客達も何事かと様子を窺っていた。


「これではもう、あなた達の話を聞くどころではありませんね。私達もこれ以上、ここに留まる理由もありません」


男達だけでなく、村人達に対しても聞こえる通る声で告げたアリシアが、困惑した様子で事態の推移を見守っていた馬車の御者に向かい、


「見ての通りです。これ以上はここに留まるわけにもいかないでしょう。なので今からでも出立しましょう」


きっぱりと告げた。


「は…はい……っ!」


御者も、完全には状況を掴み切れていないものの、


『やっぱりこの村に関わるとロクなことがないんだ……!』


とは感じてしまい、自身の馬車へと駆け寄り、馬の様子を確かめて、


「なんとか行けそうだ…! 皆さん、出発しましょう!」


声を上げた。


それを聞いた乗客達も、ただただ困惑しながらも身支度を整え、そそくさと馬車に乗り込んでいく。


その間、アリシアとナニーニが剣を構えて村人達を牽制していた。


こうしてアリシア達以外の乗客全員及び魔力を使い切って立つこともできないコデットを抱いた御者が乗り込んだことを確認し、先に馬車を村の外へと移動させた。


もちろん、アリシアとナニーニは村人達が邪魔をしないように牽制しつつ、馬車の後ろをついて行く。


そして完全に村の外に出たところでアリシアとナニーニも、馬車の後ろに捉まるようにして乗り込み、御者が馬に鞭を入れた。


少し休んだことで馬も力を取り戻したのか、ぐいぐいと前に進む。


見ればもう、空も白み始めていた。


なので、村の入り口に立って、恨めしそうにこちらを睨んている村人達の姿も見えてしまう。


実にロクでもない一時ひとときであった。


けれど、十分に離れたところで馬車の中に戻ったナニーニは、座席に寝かされていたコデットを抱き上げて、


「頑張ったね……カッコ…よかったよ……」


顔を逸らしながらもそう声を掛けた。


「うっせぇ……あいつらがムカついただけだ……お前らを助けようとしたんじゃねーよ……」


相変わらず憎まれ口を叩くコデットだったものの、その目は決して怒っていなかった。


他の乗客達にしてみれば本当にわけの分からないことに巻き込まれただけだっただろうが、アリシアは、ナニーニとコデットの様子に、目を細めていたのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る