勇者アリシア、門前払いされる

あるじは、約束のない方とはお会いしません。どうぞお引取りください」


アリシアがコデットとナニーニを伴って貴族の屋敷を訪ねるが、執事によって文字通り<門前払い>されてしまった。


「なんだよ! 話ぐらい聞いてくれたっていいだろ!」


コデットがそう憤るが、アリシアは、


「そうですね。失礼しました」


そう応えて早々に立ち去る。


「いいのかよ! 話訊きに来たんだろ!?」


あっさりと引き下がったアリシアにも納得できず、コデットは不満げに声を上げる。するとナニーニが、


「仕方ないでしょ! さすがに会う約束も取り付けずにいきなりじゃ会ってくれないって。しかも相手は伯爵だしさ。アリシア様の<男爵>より上だから……」


コデットはよりは少しだけとはいえ知識もあるので、そう説明した。


「くだらねえ…っ!」


コデットは吐き捨てるようにして言う。しかしアリシアは平然としたものだ。何しろ、こうして伯爵に自分の存在を認識させることができればそれで<フラグ>は立つのだから。


「ごめんなさい。こうしてとにかく来てみたら何とかなるかと思っていた私が愚かでした……」


二人に丁寧に頭を下げるアリシアに、コデットもバツが悪そうに顔を逸らして、


「別にお前が謝ることじゃないだろ……」


と呟いた。しかしそんな態度にもナニーニの癇に障ったらしく、


「そんな言い方……っ!」


と憤る。


「まあまあ、とにかく食事にでも行きましょう」


アリシアは二人をなだめながら提案した。


そうして三人で食事に向かうことになったものの、その背後をマントを頭から被った二人の男がついていく。


するとコデットが、


「おい、つけられてるぞ……!」


アリシアに告げた。


「え……?」


思わず振り返りそうになったナニーニに、


「バカヤロウ! こっちが気付いたことを悟られたらダメだろうが! こういうのは泳がせておいて狙い探るんだよ!」


ナニーニだけに聞こえるような小さな声で叱責しながら彼女の脇腹を小突いた。


「痛っ! なにすんだ!」


などとナニーニは怒るが、おかげでただの言い合いに見えたようだ。


しかし、さすがにこういう時は物心付いた頃から盗賊として暮らしてきただけあってコデットの方が勘が働くらしい。


そこでアリシアも、


「そうですね。でも、せっかくですから直接訊きましょう」


敢えてそう切り出した。


「次の角を曲がれば人通りの少ない袋小路です。そこに誘い込めば向こうから仕掛けてくれるでしょう」


にこやかに、それこそ何か談笑しているかのような調子で言ったのだった。


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