コデット、本音を吐露する
コデットが、自分を『飼う』と言った大人が自分にとってどういう存在なのかを確かめるための<試し行動>を始めたことで、アリシアにとっては目的はほぼ達成できていた。
後は、コデットから出される<試練>を乗り切ればいいだけなのだから。
もっとも、メイトギアであり、身勝手で我儘な人間に対しても淡々と対処できる彼女にとっては、コデットの<試し行動>は普通に甘えてもらってる程度に過ぎないので、<試練>と呼べるものでさえなかっただろう。
そうしていつしかコデットは、態度こそ生意気で礼儀知らずなままであったものの、<盗み>については治まっていった。
当然である。別に盗みを図らなくても、
<アリシアのお供という仕事>
をこなしていれば確実に美味い食事にありつけて、安心して寝ていられるのだから、何もわざわざ絞首刑になる危険を冒してまで盗みを働く理由もない。
それに……
「私はさ、親の顔とか知らないんだよ。最後に仲間だった奴らだって、私が前の仲間のところから逃げ出して、でも行き倒れかけてってしてたところを拾われただけだから……
もしかしたら、親も盗賊に殺されたのかもしんない……
ってか、最初っから親も盗賊だったのかもな……
私も、どうせいつか縛り首になるんだろうなって思ってた……だったら、それまでの間に幸せそうな奴らから思いっ切り盗りまくってやろうと思ってたんだ。
でもま、その前に馬車に轢かれて死んでたかもだけどさ……」
ベッドに入って、アリシアに背中を向けたままながら、コデットは、十歳をようやく過ぎた程度の子供とはとても思えない大人びた話し方で、自分の身の上を語ってみせた。
けれどそんな彼女の肩が小さく震えていたことを、アリシアは気付いていた。
そしてコデットは、絞り出すように、
「でも……怖かったんだよ……馬車の前に飛び出すのはさ……めちゃくちゃ怖かったんだよ……馬はでっかいしさ……」
最後の方は消え入りそうな声で、本音を吐露する。
いくら<盗賊の一員>を気取っていても、彼女はまだ子供だった。子供なりに、自分が置かれた境遇の中で生き延びてみせようと足掻いていただけだった。
アリシアは、そのコデットの<想い>も受け止める。幼く非力な彼女が取りうる少ない選択肢を、蜘蛛の糸のような頼りない未来を、何とか手繰り寄せようとしてきた努力について、ただ認めてみせた。
「よく生きててくれましたね……これからは、私の下で働いてください。それがあなたの仕事です。今までの仕事はもうしなくていいんです」
背中を向けたまま小さく震える彼女に、穏やかに声を掛けたのだった。
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