千堂アリシア、出迎えを受ける

うのていで<始まりの村>へと逃げ込んだアリシアは、村の入り口で目に見えない壁に阻まれたかのように右往左往する<ハートマーク模様の牛>を確認し、


「ヒドイ目に遭いました……」


とこぼしつつ、先へと進んだ。


するとその先に、


「いらっしゃい、お姉ちゃん。旅の人?」


見たところ六歳か七歳くらいと思しき、質素な服を着ながらも何とも言えないはなを感じさせるお下げ髪の少女が。


プレイヤーを出迎えるためのイベントだ。


スキップしてもよかったものの、せっかくなので、


「うん。人を探してるんだ。女の人。<ファリ=ファール>っていう少し珍しい名前の人なんだけど、知らない?」


と尋ねる。


それに対して少女は、


「その人、知ってる! 一ヶ月前に村に来て、ちょっとの間いたけど、いつの間にかいなくなってた!」


応えてくれた。


<ORE-TUEEE!>は、大まかに言うと、プレイヤーが務める<魔法と剣の才能溢れた主人公>が、行方不明になった兄を探して旅立った幼馴染の少女<ファリ=ファール>の足跡そくせきを追って冒険を行うという内容だった。


なので話の本筋はそんなに凝ったものではない。加えてプレイヤーが務める主人公は初期値の時点で攻守共に優れた強力なキャラクターなので、順当にアイテムなどで強化していけば初見プレイでも倒せない敵はおらず、ストーリーを追うだけならそれほど苦労もないだろう。


その一方で、話の本筋には直接関わりのないイベントが多数用意されていて、そちらを経なくてもクリアはできるものの、途中のNPCが変わったりセリフが変わったり、エンディングの演出が変わったりという形で、<やりこみ要素>を盛り込む為のものである。


中には本筋とは完全に分岐して別のエンディングへと至るイベントも用意されているものの、それについては難易度が高く設定されているためか、あまり人気はないそうだ。


<ORE-TUEEE!>を求める層は、


<苦労の果てのカタルシス>


を求めていないらしいということがこれで分かるとされている。


あくまで消費型のコンテンツとして求められているのだろう。


コンテンツに対して思い入れを持つことをよしとするタイプにはバカにされたりするものの、商用コンテンツはあくまで<商品>。利益を生んでこそのものなので、買った人形を後生大事に飾っておくような愛で方だけでは経済は動かないというのも事実である。


ゆえに過去の作品のリメイクや、それこそ二十世紀や二十一世紀頃のコンテンツを掘り起こして新たに利益を生じさせようという動きも起こる。


『美術品の維持をボランティアでやっている』


のではないからこそ。


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