頼むぜ、お嬢ちゃん
「潜水艇と合流。タイムスケジュール誤差、マイナス三秒。許容範囲内です」
千堂らと共に小型空母の<作業室>で待機し、床に固定された椅子にシートベルトを装着して座っているアリシアが声を上げた。
彼女の発言内容と同じ意味の表示が、千堂の前に置かれた端末にも表示される。
「よし、順調だな」
そう少しホッとした様子で声を漏らした千堂がいるのは、空母の側面に設置された可動式の<作業室>である。今回のような<海洋調査>のために設けられたそれは、その時々の用途に合わせ上下に移動させることができ、今は海面すれすれまで下げられている状態だった。これなら小型船舶と同等の気軽さで海に入ることができ、逆に海から上がることも容易だ。
海難事故等で漂流している遭難者を救助する時などにも使われる。
作業室の一部は<カッター(短艇)>と呼ばれる救助用の船の収納庫にもなっていた。作業室を海面すれすれまで下ろせばカッター(短艇)も容易に着水させることもできるという。
まあそれは余談なのでさて置いて、千堂とディミトリスのチームと、それが失敗した場合のバックアップとして用意された二チームがその作業室でオペレーションを行う。
とは言え、千堂とディミトリスについては、基本的にアリシア頼みではあるが。予測外の事態が生じた時に指示を与えるのが千堂の役目で、現場で実際に遺体を回収する作業が始まってようやくディミトリスに出番が回ってくる状態だ。
だから
加えて、激流の中で確実に機体を保持できる強度とパワーを持った四肢を持つ
「頼むぜ、お嬢ちゃん」
アリシアそう声を掛けたディミトリスに対し、
「お任せください」
と返したアリシアの視界には、ロボット潜水艇に掴まって進む海中の光景が広がっていた。ゴーグルが映し出す<偽物の作業室内部の光景>など見ていても仕方ないので、完全にそちらに切り替えている。
機体の制御も、<千堂アリシアとしての体>についてはシートベルトで椅子に固定してあるので現時点では最低限でいい。
とにかく今の彼女は、
機体の表面を流れる海水の感触も、確実に捉えている。
こうして移動中も、機能に問題がないことを何度もチェック。万全であることを確認する。
そんな彼女のカメラが、ついに、非常に入り組んだ複雑な海底の地形を捉えたのだった。
『あれが……』
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