GLAN-AFRICA、協力を依頼する

とにかく、敷島紘一郎しきしまこういちろうを中心とした第三ラボのスタッフらの努力と、千堂アリシアの協力により、実際の公演にはまだ十分な余裕のある段階で、魔鱗マリン2341-DSEは完成となった。


「よかったですね、敷島さん…!」


アリシアが満面の笑顔を浮かべながら敷島らを労わる。


「アリシアさんのおかげですよ。ありがとう」


敷島もアリシアに感謝の声を掛ける。


こうして魔鱗マリン2341-DSEの実機は<ポセイドン>を主催する<部署>に無事納品され、ここからは、公演に向けたダンススイマーらの猛稽古が始まる。


なので、敷島らは魔鱗マリン2341-DSEのメンテナンス等のためにまだしばらく関わることになるものの、アリシアの役目はここで終わりだった。魔鱗マリン2341-DSE用のアルゴリズムについてもチェックは続けられるにしても、アリシアはそれには関与できない。


それに、魔鱗マリン2341-DSEの完成度はとても高かった。ダンススイマー達の厳しい猛稽古に付き合っても、トラブルらしいトラブルはなかった。


その一方で、第三ラボの開発室には、魔鱗マリン2341-DSEの実験機の方が残されていた。万が一、納品された方の魔鱗マリン2341-DSEが何らかのトラブルで使えなくなった時のために残されてはいるものの、それさえ、必要な部品のストックは確保されているので、おそらく出番はないだろう。


このまま、<開発の資料>として倉庫で眠ることになるのがいつもの流れだった。実際、倉庫には、そういう<実験機>や<試験機>が数多く眠っている。この機体も、そういうものの一つになるのだ。


が、突然、そんな<魔鱗マリン2341-DSEの実験機>に、白羽の矢が立てられた。


「実は、GLAN-AFRICAグランアフリカから、海洋調査の協力の申し出があったんだ」


「海洋調査、ですか…?」


JAPAN-2ジャパンセカンド社の本社ビル内の千堂京一せんどうけいいちの部屋に呼び出されたアリシアは、やや戸惑った様子で応えた。


海洋調査など、アリシアにとってはそれこそ専門外もいいところの話だった。それが自分に聞かされること自体、意味が分からない。


けれど、千堂が続けて口にした言葉に、彼女は戦慄した。


「クグリのものと思しき遺体が、アフリカ内海の海底で発見されたらしい……」


「……!?」




<クグリ>。


火星全土を震撼させた<クイーン・オブ・マーズ号>事件を引き起こした張本人にして、火星史上最凶最悪のテロリストと呼ばれた男。


千堂アリシア自身、忘れようとしても忘れられるはずのない男の名を耳にして、彼女は人間のように体を震わせたのだった。


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