千堂アリシア、切り替える

<クイーン・オブ・マーズ号事件>の後、アフリカ内海を管理するGLAN-AFRICAグランアフリカのみならず火星全土の各都市の協力の下で数ヶ月に亘って続けられた捜索でも発見されなかった<クグリの遺体>らしきものが発見された。


それは千堂アリシアに大きな衝撃を与えた。体が小刻みに震え、目の焦点が合わなくなる。人間で言えばパニック障害の発作のような様子だった。


「アリシア。大丈夫だ。私がついている……」


およそロボットにあるまじき反応を見せるアリシアを、千堂京一せんどうけいいちはそっと抱き締めた。


すると途端に、アリシアの様子が落ち着いていくのが分かった。この辺りの切り替えの早さはさすがロボットということかもしれない。


「すいません…取り乱してしまいました……」


自分が正常な状態でなかったことにアリシア自身も気付いていて、そう詫びる。


しかし千堂は、


「気にしなくていい。アリシアの所為じゃない。正直、私もこの話を聞いた時には『なんだと!?』と大きな声を出してしまったしな」


微笑わらう。そんな彼を見て、アリシアもホッとしていた。


本当に彼の存在が自分を支えてくれていることを改めて実感する。


そんなアリシアの様子を確かめた上で、千堂は続けた。


「とにかく、表向きは<海洋調査>となっているものの、実際には、


<火星史上最凶最悪のテロリスト・クグリの死亡を断定するための調査>


というのが今回の主目的だ。それで、<クイーン・オブ・マーズ号事件>において最もクグリと関わった私達にも調査に加わってほしいというのが先方の意図だな」


その説明に、アリシアの決断は早かった。姿勢を正し、キリッと顔を引き締め、


「分かりました。そういうことなら、微力ながら私も協力させていただきます」


と応える。


それを受けて千堂は、


「せっかくなので、魔鱗マリン2341-DSEの実験機を利用して、アリシアにも潜ってもらいたいと思うんだが、可能か?」


とも問い掛ける。それに対してもアリシアは、


「海洋での運用は初めてということになりますが、これまでの運用データから十分可能であると判断します」


と、JAPAN-2ジャパンセカンド社職員として千堂を真っ直ぐに見詰めてはっきりと告げた。


「よろしい。では、今回の依頼、正式に受諾することを先方に伝える。出発は三日後の予定だ。私もスケジュール調整があったからそれが最短ということになる。


遺体と思しきものが発見された場所は海底でありながら流れが速く、あまり時間をかけているとまたどこかに流されてしまう可能性があるらしい。しかも入り組んでいて一般的な水中作業用のレイバーギアでは侵入が難しいということで、魔鱗マリン2341-DSEの実験機が適任と思われる」


とのことであった。


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