千堂アリシア、シミュレーションを開始する

いずれにせよ、こうしてアリシアの<特別開発チーム主任>としての仕事が本格的に始まった。


昨夜は久しぶりに千堂と一緒の時間を過ごせたことで、アリシアとしても機嫌がいい。別に何か特別なことがあったわけでなくただいつもどおりに屋敷で過ごしただけだが、それでも彼女にとってはとても満たされる時間だった。


千堂が出張中はアリシア2305-HHSと二人きりだったこともあって、正直、寛げなかった。決して何か小言をもらうとかではないものの、彼女のことは<メイトギアの先輩>として尊敬もしているものの、やはり今も苦手意識は完全には消えていなかったようだ。


気を遣ってしまって疲れるのである。


それについては千堂も承知しているものの、こればかりは時間を掛けて解決していくしかないだろうとも考えている。


いや、人間でもそうだが、どう足掻いても努力をしても苦手意識が解消されないことはあるので、無理に解消することも考えてはいない。


それで無理をするとかえって拗れることも多いからだ。


焦ってはいけない。焦りは問題を大きくする原因になる。


千堂は、自身の経験からもそれを心掛けていた。


だから楓舞フーマ1141-MPSの件についても、確かに企業としては上手くいって欲しいと願うものの、かといって功を焦っては大きな失敗をする危険性が高くなる。


それを考えられる分別が千堂にはあった。


だからアリシアも無理をせずにいられてる。


そのおかげもあって、アリシアは心地好く楓舞フーマ1141-MPSのテストに望めた。


そして今日は早速、<戦闘テスト>である。


と言っても、今日はまず双方のAIをリンクさせての、<バーチャル演習場>でのシミュレーションではあるが。さすがにいきなり実機同士をぶつけることはない。これによりシミュレーションを重ねた上で実機によるテストに移る。楓舞フーマ1141-MPSもそうだが、千堂アリシアは貴重な被検体だ。そのような形で失われては大変な損害になる。


そんなわけで、念のために戦闘テスト用の施設には移るものの、大きな体育館のような空間の真ん中に、アリシアと楓舞フーマ1141-MPSが向かい合って座って、シミュレーションが開始された。


ここまで、それぞれのバージョンのアルゴリズムを用いた同様のシミュレーションも行われているものの、やはり実際に機体に搭載した状態でのそれも必要とされている。機体やメイトギア用のアルゴリズムとの兼ね合いで、判断に少なからず差異が出るからであった。


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