2020年4月2日(木) 引きこもり

 4月2日は夜遅くまで起きていたので、この日記は4月3日に書いている。


▼午前八時ごろ

 起床。じゃがいもとベーコンの炒め物とトーストで朝食。

 食後、宅配ボックスが空なのを確認。

 部屋の片隅に眠っていた旧式のAndroidタブレットを掘り起こし、アプリストアから「Alfred」をダウンロード。即席の監視カメラに仕立て上げる。

 こいつを玄関脇に目立たないように設置して、宅配ボックスを見張らせることにした。


 十時ごろ、玄関先から「ゴトン」と音がした。

 昨日Amazonに注文した物品のうち、Amazonから直接発送されたものが宅配ボックスに届く。主に本と小物類。

 

 自宅の二階の窓から宅配ボックスを見張っていたが、誰か来た様子はなかった。監視カメラにも人影は映っていない。

 どうやら、宅配便の荷物はどこからともなく湧いて出るようだ。


 昨日、政府が「各世帯に布マスクを2枚配布する」と発表して物笑いの種になっていたが、うちにもマスクは届くのだろうか?


 昼まで、メールとSlackとチャットワークに届いた連絡の打ち返しをする。

 メッセージのなかに、ときどき「ロックダウン」という言葉が混じるようになってきたが、本気でロックダウンが起こると思っている人は、たぶん少数派だろう。


▼午後三時ごろ

 インスタントラーメンと野菜ジュースで昼食。

 今日は急ぎの作業がない。届いた資料を読み、重要な部分をテキストにまとめてDropboxにアップロード。


 Amazonで今後必要になりそうなものを注文しながら、プライムビデオで映画『翔んで埼玉』を見た。

 映画は面白かったが、埼玉にあった我が家が、群馬以上の秘境にワープした現実を突きつけられ、名状しがたいストレスを感じた。


▼午後四時ごろ

 遠くから夜叉猿の鳴き声がする。何をそんなに騒いでいるのだろうか?


 Amazonからいろいろ届いたら、外の探索を進めてみようと思っている。

 夜叉猿とはいつか決着をつけなければいけない予感がする。


▼午後十一時ごろ

 千葉に住んでいるゲームマニアの知人から、Discordの通知が飛んできた。

 かなり年上の人で、いまはセミリタイアし、親御さんの介護をしながらアパートの管理をしながら家賃収入で生活している。

 名前は風間さんという。五十過ぎの男性だが、結婚はしていない。以前はゲームメーカーでプログラマーをやっていたそうだが、いまは半分くらい引きこもり。


 何の話かと応じてみれば、他愛のない雑談であった。最近買ったレトロゲームや、雑誌や話がメインだ。

 新型コロナ騒動のせいか、ただでさえ遅配の多い海外からの荷物が、ますます届きにくくなっているらしい。


 風間さんはふだんゲームの話しかしない人で、この日もその例に漏れなかったわけだけど、言葉の端々から世相に不安を感じているのが分かる。

 たとえ安定した収入源があるとはいえ、高齢の家族の介護をしながら、社会と切り離されたような生活をしれいれば、心細くなるのは当然だ。

 私に連絡してきたのは、きっと不安を紛らわせたかったからだろう。


 毎月一回、千葉の片田舎から総武線で秋葉原に出て、ゲームショップとゲームセンターと基板屋を回り、駅前のゲーセンに寄って『ハングオン』や『アフターバーナー』で遊んで帰る。それが風間さんの楽しみだったのだが、しばらくは自粛せざるをえないだろう、と言っていた。

 あと、秋葉原のエターナルアミューズメントタワー(彼はいまだに「トラタワ」と呼ぶ)が先日閉店したのが、相当ショックだったらしい。


 途中から、お互い気分を紛らわせるために酒を飲み始め、なんだかんだで五時間も話し込んでしまった。最後のほうは楽しい話になっていたと思う。

 早く、風間さんのように大人しくて善良な人がヘラヘラ笑って暮らせる世の中に戻ってほしいと思った。


 寝る前に、「キリン・ザ・ストロング 本格レモン」24本入りを注文した。

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