2020年3月30日(月) 異世界でもジャンプは読める
▼午前六時ごろ 起床
昨日はソシャゲのフレーバーテキストを書いているうちに寝てしまった。
とりあえず、外の様子を見ようと玄関のドアを開けてみたら、ムワッとする熱気と、植物の青臭い匂いが流れ込んできた。
お外は相変わらずの熱帯雨林である。やっぱり夢じゃない。
仕方がないので、仕事部屋に戻って原稿の続きを書く。
いま書いているのは、ソシャゲ(版権もの)のテキストである。各キャラの簡単なプロフィールを200文字くらいの物語風にまとめ、最後にそのキャラが言いそうな台詞を入れていく。
1時間ほどで残りの部分が完成したので、ざっと見直し。全部で60キャラ。
急いで書いたため、同じような言い回しが頻出している。さらに1時間ほどかけて修正。最後にエクセルのデータをコピーして、ワードに貼り、スペルミスをチェック。誤字を直していったん終了。
気になった部分に申し送り事項を書き添え、ファイルをDropboxにアップ。
DropboxのURLをコピーし、Slackで明沢に送り付けて納品完了。
この日記を読んでいる人(いるのか?)のために説明しとくと、明沢はシナリオライター斡旋会社の社員。ゲームメーカーやアニメ制作会社からシナリオの案件を受けてきて、俺みたいなライターに回し、ピンハネするのが仕事だ。
元は大手の出版社で大ヒットライトノベルを手がけた編集者だという触れ込みだが、実はその大ヒット作は別の編集者からの引き継ぎ案件だったりする。業界の寄生虫のような男だが、悪人ではないし、弁が立つので営業には向いている。
まぁ、なんだ、「必要悪」が服を着て歩いているような男だと思ってほしい。
原稿を送り終わってのんびりしていたら、スマホに通知が出た。
明沢が早速原稿を読んで返信してきたのかと思ったら、ジャンプ+の通知だった。今週のジャンプが配信されたらしい。
異世界でもジャンプは読める。
とりあえず無惨様の生死が気になったので、『鬼滅の刃』だけ読んだ。エピローグみたいな雰囲気だが、無惨様、これ死んでなくね……? 肉片放置して大丈夫? 「富岡、うしろうしろ!」ってならない?
▼午前十時ごろ 仕事
SlackとチャットワークとGmailに溜まった連絡を片っ端から打ち返した。
ネットニュースを見ると、今日も世間は新型コロナCOVID19で大騒ぎだ。昨日は東京都内で新たに六十八人の感染者が見つかったらしい。
志村けんが亡くなった。ショックだ。
片田舎の一軒家でハードコアな引きこもりをしている俺にとって、新型コロナ騒動はまるで異世界の出来事のように感じていたし、現にいまとなっては正真正銘、異世界の出来事なのだが(いや、ここが異世界と決まったわけではないぞ?)、愛着のある人が亡くなると、急に身近なことに感じられてくる。不思議だ。
家の外からは、鳥か猿の鳴き声のような奇っ怪な音がする。
何も考えたくないので、先日届いたばかりのPCエンジンminiを開封し、『カトちゃんケンちゃん』で遊ぼうと思ったが、収録されていたのは海外版の『J.J&Jeff』だった。海外版はキャラが差し替えられているのである。ショックだ。
▼午後一時時ごろ 準備
つい『邪聖剣ネクロマンサー』で二時間ほど遊んでしまった。現実逃避だ。
昼飯はインスタントラーメン。これからの食料のことを考えると背筋がぞっとしたので、麺を割って半分だけ食べた。食料の買い置きは山ほどあるが、ここは慎重にいきたい。
飯を食った後、意を決して家の外に出てみることにした。
まずは装備を調える。
古いが丈夫なジャージ、ゴム長、軍手を装備。念のため不織布のマスクも装着した。
武器も必要だ。
武器といえば刃物だが、鋭利な包丁は自分の手を切りそうなので危ない。
傘立てに突っ込んであったゴルフクラブと、台所に放置してあった鏡月の空き瓶をもっていくことにした。ゴルフクラブは以前に明沢が勝手に送り付けてきたものだ。接待用にゴルフクラブを買ったが、ぎっくり腰になったのでやると言って送りつけてきたのだ(着払いで)。
▼午後二時時ごろ 探索
家の外の探索を開始する。
これって不要不急の外出ってやつなのかな? どうなんだろ?
家から外に出て、まずは近辺の見回りをした。
どうやら俺の家は、敷地まるまるこの異世界に飛ばされてきたらしい。玄関脇の小さな庭、そこに設置した宅配ボックス、駐車スペースもまるまる残っている。
車は親が亡くなったときに売ってしまったけど、買い出し用のマウンテンバイクは駐車スペースに残っていた。こいつは家の中に入れておく。
家の周囲は、南洋の島々に生えてそうな木々や草花が繁茂している。獣道すらない。ザ・ジャングルって感じ。周りの植物をiPhoneで撮影しておく。
空にはちゃんと太陽も空もある。太陽はちょうど中天ってところか? 一日の流れは日本と同じくらいということだろうか。
あまり家から離れないように注意しようと思って、iPhoneにアラームを1時間後に設定。
そのとき、はっと気がついて地図アプリで現在地を確認しようとしたが、GPSが働いていないのか、私の現在地を示すポインタは埼玉にある自宅からピクリとも動かない。
草木を掻き分けながら周囲を探索するが、文明の匂いがするものは何もない。
遠くからは鳥の鳴き声がした。わからないけど、たぶん鳥。
危険な動物がいないと良いな、と考えながらうろついていると、突然木の上から「キャホー!」と甲高い叫び声。
心臓が止まるかと思った。
見上げると、オラウータンのような生き物がこっちを睨み、歯をむき出しにしながら威嚇の声を上げていた。
俺が後ずさると、調子に乗って木から降りてきやがった。
そいつは赤と青のまだらな体毛を持っていて、体の大きさは人間の小学生ほど。手足が異様に長い。鋭利な歯をむき出しにしている口の端からは、じっとりと唾液が流れ出ている。
思わず「ヒッ」と声を漏らすと、やつは調子づいたのか、こっちににじり寄ってきた。
本能的に鏡月の空き瓶を投げつけたら、運良く猿の顔面にヒット。
猿は「キャホーホー!」とチン・シンザンみたいな悲鳴を上げて逃げていった。
思い知ったかエテ公! これが「酒の呼吸・壱の型 鏡月一閃」じゃい!
空き瓶を回収し、家に帰ったらシャワーを浴びて横になった。
▼午後六時ごろ 撤退
それにしても困った。
あんな危険そうな生き物が家の外にいるとは。
iPhoneを見ると、原稿の進捗を確認するメールが来ていた。おまえらは鬼か。俺はいま、コロナ以上の脅威に直面しているというのに。
現実逃避を兼ねて、仕事部屋に戻って働く。
明日、定例のネット会議がある。コンシューマーゲームの案件だ。
今日はそのためのコンシューマーゲームのプロット1本と、設定のアイデアメモを作成。Slackの開発チームチャンネルに貼り付けて終了。
▼午後九時ごろ 夕食
夕食は昼のインスタントラーメンの残り。
明沢からメールの着信。
「いやー、今日送ってもらった原稿、来週で大丈夫だったわ。流行りの言い方すると不要不急ってやつ? ごめん」
ぶち殺すぞ。
ゲームメーカーのウェブサイト用の原稿を書きながら、Amazonプライムで『虚構推理』を八話まで見た。面白い。
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