第6話

声がした方を向くと、そこには一人の女が立っていた。

顔付きはどことなくレイアに似ているが、体の方は正反対だ。レイアは大きく素晴らしい胸をしているが、こっちの女はまな板ような胸をしている。

服も同じ生地を使っているようだが、全くエロスを感じない。

ただ足は良い。スラッと伸びた綺麗な足をしている。腰つきもエロい。下半身だけならレイアに勝っている。


「あれ、ミラちゃん。何でこんな場所に? 森は危ないから外で待っていたはずですが」


「その森がおかしいから様子を見に来たのよ。何かあったのかと思って」


親しげに会話している。

どうやら二人は知り合いらしい。


「って何よコレ!! 何があったらこんな事になるの!?」


ミラと呼ばれた女が見通しの良くなった森を見て叫び声を上げる。

それに対してレイアは何故か自慢げだ。


「それはここにいる私の選んだ勇者の魔法によるものです」


自分でやった訳じゃないのによく偉そうに出来るな。

ていうか、さっき俺の魔法に対して怒っていたのにどういう風の吹き回しだ?

……ああ、いや違うのか。怒ったのは魔法を使った事に対してで、魔法の能力自体は認めている。

後、俺は勇者じゃない。


「勇者?」


ミラが俺に視線を向ける。そして結構な距離があったのにひとっ飛びで目の前までやってきた。まるで空を歩くような跳躍だった。

これも魔法だろうか? 魔力を何かに変換したようには見えなかった。

何となく自然現象だけのイメージがあったけど、他の物にも変換できるのだろうか? 興味深いな。


「へぇ、これが。お姉ちゃんの選んだ勇者か……」


ジロジロと覗き込んでくる。

近くで見ると本当に美人だな。レイアと比べても遜色ない。

ただ遠くにいた時は大人びているように感じたが、近くで見てみると思ったより小柄だ。大体中学生ぐらいだろうか。

耳が長く伸びているのでレイアと同じエルフだと分かる。

というか、それよりも一つ気になる単語があったんだが。


「お姉ちゃん?」


「その通り、貴方が全身をイヤラシイ視線で舐め回している可愛い女の子は私の可愛い妹です」


似ているとは思ったが姉妹か。

でも似ているのは顔だけで他はそんなに似ていないように思える。スタイルもそうだが雰囲気が違う。

口調が全然違うから、そう感じるだけかもしれないけど。


「……変態」


ミラが急に顔を赤らめ胸元を手で隠しながら罵倒してきた。

罵倒の理由はリアクションから想像できる。俺がジックリ観察したのとレイアのイヤラシイ視線発言で変な勘違いをしたのだろう。

先にジロジロ見てきたのはそっちなのに失礼な奴だ。


「安心しろ、レイアの言った事は冗談だ。俺はミラの全身をイヤラシイ視線で舐め回したりしていない」


「……本当に? あんたの視線から邪なものを感じるんだけど」


疑り深い奴だな。

まぁ、初対面の男をいきなり信じろ、ってのも無理な話だが。

て言うか、レイアみたいに心が読めないのか? 心が読めるならこんな無駄なやり取りをしないですむのに。


「本当だ、俺は嘘なんかついていない」


「言葉では何ともでも――」


「なんせ俺は足にしかイヤラシイ視線を向けてないからな」


「やっぱり変態じゃない!」


さっきとは違って強目の口調での罵倒。

ドMな人からすれば美少女の罵倒はご褒美かもしれないが、俺はドMではないので何も感じない。ただ人の――特に美少女の動揺している様子は唆られる。

イジメたくなってくる。


「それで何を安心しろって言うの!? 安心できる要素がないじゃないの!」


「安心できる要素? そんな貧相な胸には興味ないから隠さなくても大丈夫って点は安心できると思うぞ」


「何なのコイツ! ムカつく!」


予想通りの反応。

姉と違って分かりやすい性格をしている。スタイルや口調だけでなく性格も正反対みたいだ。本当に姉妹なのか疑わしくなってくるな。


「ちょっとお姉ちゃん、こいつで大丈夫なの? 人格に問題しかなくて信頼できないんだけど」


流石にそれは言い過ぎじゃないか?

からかった俺に非があるとはいえ、ちょっとショックだ。


「七瀬さんは分かっていませんね。胸とは大きいだけが全てではないのです。ミラちゃんぐらいの可愛らしい胸にだって違った良さがあります」


「お姉ちゃんまで何言っているの!?」


む……確かにレイアの言う通りだ。

小さい胸にもちゃんと良さがある。巨乳よりも貧乳の方が感度が良いと聞いた事がある。

自分の認識の狭さを反省しないといけないな。


「まぁ、ミラちゃんの胸の良さは後で語るとして問題はありません。確かに七瀬さんの人格は破綻しています」


「おい、待て。俺の性格に難があるのは自覚しているが、お前にだけは言われたくないぞ」


「ミラちゃんが現れなかったら、今頃私は私の美しい容姿に欲情し股間を大きくした色欲魔に襲われていたでしょう」


俺の言葉を無視して風評被害をするレイア。ミラのゴミを見るような視線が痛い。

先に襲おうとしたのはレイアのはずなのに何故か俺が悪者にされてしまった。言い訳をしたいとこだが言っても無駄だろう。ミラは姉の言葉を信頼してしまっている。

何でこんな姉を信じられるんだ? レイアは俺と同じか、それ以上に性格に問題があるぞ

妹の前では猫を被っているのだろうか? もしくは洗脳?


「でも問題ありません。変態なら変態で対処方法はあります」


「さすがお姉ちゃん。どうするの? 去勢?」


「いえ、むしろ逆。籠絡出来れば思いのまま。具体的にはミラちゃんの処女を捧げるのです」

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