第5話

「あれ?」


キラーウルフを倒した。それはいい。何の問題もない。

問題が起きたのはその後だ。


キラーウルフを真っ二つにした風の刃がそのまま森まで伐採し始めたのだ。

勢いは止まらず次々に木々が倒れていく。途中で軌道がずれて上に逸れたが、非常に見通しがよくなってしまった。


「……ちょっとやり過ぎたかな?」


「どこがちょっとですか!? 地形が変わるレベルじゃないですか!! やり過ぎ過ぎますよ!!」


さっきまでの余裕はどこに行ったのか凄い勢いで詰め寄ってくるレイア。

過ぎ過ぎるって。


そんな反応されるとゾクゾクしてくるじゃないか。飄々とした奴が冷静さをなくし取り乱す様子、もっとイジメたくなってくる。


「仕方ないじゃないか。あれがどれくらいの威力が分からなかったんだから」


「だから言いましたよね!? ストップって!」


「ごめん、聞こえなかった」


「嘘をつかないでください! 絶対聞こえてました!」


本当に心が読めるのだろうか? 厄介だな。

それならそれで方法を変えるだけだ。


「大体こんな事してどうするんですか! 敵対行動だとみなして森中の魔獣が襲ってきたらひとたまりもありませんよ!」


「それは大丈夫じゃないか?」


周りを見渡して見るが全くそんな様子はない。

むしろ逆だ。さっきから森が騒がしいが獣の足音は遠ざかってる。

恐らく俺の一撃に恐怖を感じて逃げていっているのだろう。


「かもしれませんが、いえ……文句を言うだけ無駄ですね。貴方が私の予想以上の力を持っていた事を喜ぶべきです」


「ん?」


これからイジろうと思っていたタイミングでレイアの雰囲気が変わる。

獲物を狙うハンターみたいな目に思わず冷や汗が流れる。


「どうです、これだけの力があるのです。魔王なんか恐れる必要はないと思いませんか?」


「それとこれは別問題だ。何の因果関係もない」


「そうですかね? 魔王を超える力があれば命の危機なんて感じる必要もないでしょう」


「本当に魔王を超えていればな」


いくら俺の力が凄くても魔王より優れている保証はどこにもない。

まぁ、少なくとも魔王を倒せる可能性はあるのだろうが。だからこそレイアは更に本気になって俺を勧誘している。

というか、仮に魔王の力を超えていたとしても戦う以上は命の危機はある。


「……本当に面倒臭い人ですね。普通今の力を目の当たりしたら万能感に包まれて冷静な判断など出来なくなるというのに」


確かに万能感はあった。それによって魔王すらも倒せるような気がした。

魔王がどういった存在であるかも知らないのに。

でも森の被害を見たら逆に冷静になってしまった。威力が想像の理解を超えていた。

だからこそ勇者なんてやりたくない。


「……分かりました、そこまで言うならこっちにも考えがあります」


そう言ったレイアはいきなり抱きついてきた。


「ちょ、何を!?」


「色仕掛けです。今の力を見たら何があっても貴方を逃す訳にはいかなくなりました。だから私抜きでは生きられない体にしてあげます」


「ぬぐっ……」


不意打ちで唇を奪われた。そしてそのまま抵抗する間もなく舌が口の中に入ってくる。

舌と舌が絡まり合い、レイアの唾液が俺の中に侵入してくる。思いのまま俺の中を陵辱していくレイア。

キスって初めてしたけどこんなに激しく気持ち良いものだったのか。今までの価値感が変わる程の衝撃だ。

世の恋人達は本当にこんな経験をしているのだろうか?

いまいち信じられない。しているとしたら羨ましい話だ。


「どうでした?」


十分ぐらいねっとりヤッたところでレイアが口を離す。

キスしながらレイアも欲情したのか蠱惑的な――端的に言ってエロい表情になっていた。


「どうと言われてもこの程度じゃな。命をかけるには値しない」


ギリギリのところで強がる事に成功する。これ以上続けられたらヤバかった。


「粘りますね。それともただの欲しがりですか?」


その仕草一つ、その言葉一つが非常に魅惑的だ。このまま身を任せていいと思うほどに。


「ちょっと待て! さっき初めて会ったばかりだろ! そんな男と性行為とか抵抗感はないのかよ!?」


「そんなものありませんよ? 世界――いえ、私の仲間を救うためです。どんな目にあおうと関係ありません。死ぬ覚悟だって出来ています」


それほどまでに本気なのか……。

それなのに俺は適当な事ばかり。勇者をするかどうかは別として反省――


「それに初対面の男と性行為して何が駄目なんですか? 性格はともかく貴方の顔はかなりタイプです。理由はそれで充分だと思いますけど?」


する必要はないな。

こいつはただの性欲の権化だ。

しかしこうなってくると説得が難しくなってくる。使命ではなく半分以上は趣味で襲ってくるのだ。より興味のあるものではなければ交渉の材料にはなりえない。


って……あれ?

ここで気付く。何で説得する必要があるのだろう?

向こうから誘ってきている訳だし、俺が何かヤっても問題はないはずだ。

俺はアニメの主人公とかと違ってヘタレじゃないし、どうでもいい良心とかも持ち合わせていない。


更にレイアの口振りからしてこの森は魔獣の住処。だったら人はあまり寄り付かないはず。

魔獣もさっきの俺の魔法で逃げた。つまりここには誰も邪魔するものはいない。何をしても大丈夫!


「どうやら貴方もヤる気になったみたいですね。でも童貞ではどうする事も出来ませんよ。私の手の平で上で踊るだけです」


「童貞だからって馬鹿にするなよ。ちゃんと勉強はしてるんだよ」


「……これってどういう状況です?」


不意に第三者の声が聞こえてきた。

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