第4話
「なるほどなるほど。俺がキラーウルフを倒す。それは確かに合理的だ。レイアは自分で倒すよりも楽しめるし、俺も魔法を実践で確かめられる」
「初めて気が合いましたね。では早速倒してみましょう」
そう確かに悪い手ではない。たった一つの問題を除けば。
「って、出来るか! 俺は魔法を使った事ないんだぞ!」
「これが異世界の文化――ノリツッコミですか」
何故か感心した様子のレイア。
そんな単語、どこで覚えたんだ?
「問題ありません。ちゃんと教えますから」
「それは前提条件だろ。俺が言いたいのはそんな簡単に使えるようになるのか、ってことだ」
「それも問題ありません。コツさせ掴めば後は簡単です」
「そのコツを掴むのは簡単なのか?」
「…………さぁ?」
この窮地を脱したらぶん殴ろう。うん、そうしよう。
……ていうか、それどころじゃない。ジリジリと近寄ってきていたキラーウルフだが、こっちが動かないのを見て攻撃を開始してきた。
「うおっ!」
まだ10メートルは離れていたはずだが、気付いたら目の前に立っていた。
そしてそのまま大きな爪を振り上げる。
あ、これは死んだな……。そう感じさせるだけの威圧感がキラーウルフにはあった。
「勝手に諦めないでください。ここで死なれたら私が困るのです」
レイアが手を前に差し出すと同時にキラーウルフが派手に後ろにぶっ飛んだ。
今のが魔法か。凄い威力だな。
だがどうやって攻撃したのか全く見えなかった。
「今のは何だ?」
「魔法です」
「それは分かってるよ! 魔法で具体的に何をしたか聞いてるんだよ!」
全くやりづらい。
しかも天然じゃなくて明らかにふざけているだけなのだから質が悪い。
「七瀬さんは言葉は足りませんよ。それでは相手にちゃんと伝わりません」
ムカつく女だな。人を煽らないと喋れないのか。
俺は伝わると確信しているから略しているんだ。そうじゃない相手にはちゃんと話している。
「今のは私の得意とする風魔法です」
「風魔法……」
なるほど。だから見えなかったのか。
一つ気になるとしたら隣にいたのには全く風圧を感じなかったこと。
推測だが恐らく風を一点に集中させているのだろう。だから周りに余計な力が漏れていなかった。
「さて、ではやってみましょうか。大事なのはイメージです」
「イメージ?」
「そうです。一番最初にすべきはマナを体に取り入れ魔力に変換すること。この基本が出来ないと何も出来ません」
「なるほど、マナを体に取り入れ魔力に変換」
…………どうすればいいんだ?
イメージしろと言われても出来る訳がない。マナが何かも全く知らないんだぞ。
「その感覚を私に教える事は出来ません。この世界の人間、特に私の種族は魔法が得意です。故に物心ついた時から魔法を使えました。だからコツと言われても分からないのです。七瀬さんには実際に魔法を使って体で覚えてもらうしかありません」
「どうやって?」
レイアの言いたい事も分かる。だがそれもどうにかして魔法を使えないと始まらない。
「私がサポートします」
そう言うとレイアは俺の背中に抱きついてきた。
背中に大きくて柔らかい二つの感触が。不本意だが童貞の俺には刺激が強すぎる。最初のベッドの時も思ったが女性の体ってこんなに気持ち良いのか!
「命の危機にあるのに私の体に欲情するとは。随分と余裕ですね」
「仕方ねぇだろ!」
そう、仕方ない。生理現象は自分の意思でコントロールできないのだから。
それにむしろこんな状況だからだろう。命の危機に対して種の生存本能が働いているのだ。
と、まぁ……こんな言い訳はしても意味がないので話を進める。
「で、俺は何をすればいい?」
「集中してください。私が貴方の代わりにマナを魔力に変換します。その感覚を覚えるのです」
「うおっ!」
急に体から今までに感じた事のない力が溢れてくる。これが魔力……。自分の体内に何か得体の知れない物が。
これなら魔法ぐらい俺でも使えそうだ。
「そこから先は先程言った通りです」
「イメージか……」
「はい、何でも構いません。目の前の魔獣を倒す攻撃をイメージしてください」
キラーウルフが立ち上がって体勢を整える。
さっきよりも警戒心を強めているようで俺達を観察している。獣なら逆上して馬鹿みたいに襲ってくると思ったのに、どうやら意外と知性が高いらしい。俺にとっては逆に好都合。
今の内に攻撃の準備だ。
と言っても攻撃のイメージって何をすればいいのか。周りが森だから炎はマズイし、氷も何か違う。
……やっぱり風かな。さっき一応実物を見たし、何より俺が好きな漫画のキャラが風使いだ。
「…………」
手の平に集中、風が集まるイメージをしてみる。
すると本当にイメージ通りの風の刃が出来上がった。サイズは俺の身長よりも少し小さいぐらい。
さっきのレイアの魔法と違って風を抑えきれておらず風力で周りの木々から揺れている。
「うそ……何これ」
後ろで何か呟かれたような気がするが俺の耳には届かない。
そんな事より何故かギュッと抱きしめられたせいで、更に背中の胸の感触が濃厚なものになる。
「うっ……!」
あまりの破壊力に軽く意識が飛びそうになるが、ギリギリのところで耐える事に成功した。
今は性欲が負けていい場面ではない。
そして俺はキラーウルフに視線を向ける。すると俺の魔法を見て怯えているのか、若干足が後ろに下がった。
この魔法がどれくらい凄いのかは分からないが、それでも少なくともキラーウルフを怯えさせるだけの力はあるらしい。
とりあえず、もうちょっと力を入れてみる。
すると風の刃は更に大きくなり、森は一層に激しく揺れる。
「これが魔法……」
感動のあまり声が漏れる。
確かに凄い力だ。今なら何でも出来る、魔王だって倒せる!
そんな万能感にも似た感覚が体中を支配する。
さっきまで目の前の魔獣に怯えていたのが嘘みたいだ。
「ワォッ!」
勝てないと悟ったのかキラーウルフが鳴き声を上げて撤退の準備を開始する。
「それは駄目! ストップ!」
今度はちゃんと聞こえたがレイアの叫びは無視。
俺はキラーウルフが後ろを向いた瞬間に風の刃を放つ。
と、同時にキラーウルフは真っ二つになる。
レイアは俺に後ろを向くと死ぬ、と言ったがそれはキラーウルフの方も同じだったらしい。
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