第53話 エピローグ【キミに伝えるこの気持ち】
季節は巡り
〜5年後〜
「ここが……」
「あぁ」
雪がしんしんと振る12月のある日、私と旦那はとある場所で立ち止まり、上にある大きな看板を見ていた。そこには……
『ライブ会場入口』
「デカい場所だな! ホントにここでやるのか? もっと小さい場所かと思っていた」
「私も初めてだからな、正直ここまで大きいとは……」
周りには私達と同じ目的で来ている人でごった返していた。そんな中、【関係者】と書かれた腕章をした1人の女性が駆け寄ってくる。
「あっ!
「おぉ!
「はい、ご無沙汰してます! 店長さんもお久しぶりです 」
「おう! 元気にしてたか嬢ちゃん」
案内してくれたのは
「もうすぐ始まりますので、こっちです」
彼女は私と旦那を先導するように歩き出す。
「しかし、本当にいいのか? 関係者席だなんて……」
「いいんです! それにクラスメイトの皆は既に到着していますし」
彼女が言うクラスメイトとは高校1年の時のクラスの事だ。衝撃的な事が多かったクラスだからなぁ……その分団結力は凄かった。今でも関わりがあると思うと嬉しく思うよ。
「みんな! 園田先生の到着だよ!」
関係者席に案内される。案内されながら今回の会場を改めて見ると馬鹿でかい広さだった。その最前列に関係者席が設けられている。
「先生お久しぶりです!」
「おぉ! みんな元気にしてたか?」
「きゃあ先生、懐かしい〜」
女子生徒は私の腕を掴むとグイグイ輪の中心に押しやった。旦那の方は男子達とハイタッチをしている。
文化祭の後の打ち上げで旦那の店を使ったのだが、皆気に入って常連客として通うようになったとか。
「しかし、本当に成長したもんだ」
「あぁ、しかもこの日にライブを……」
なんとか女子の輪から抜け出して旦那の元に戻ると自然とそんな言葉がでた。
そして、客も満員御礼となって開演の時間が迫る。
いよいよ……ライブが始まる
ブオォン……
スクリーンに映し出されたのは小さな蕾。
その瞬間、観客は全員白いペンライトを頭上に掲げる。
「これは……」
「はい先生と旦那さんの分」
「あ、ありがとう。星宮これは一体?」
「2人のライブの始まる合図で、祈りですね」
「祈り……」
皆、目を瞑っている……そして、綺麗なピアノの旋律が会場内を包み込む。その合図で一斉に目を開けるオーディエンス。
スクリーンには1輪の赤い薔薇が咲いていた。
「小さな蕾……苗」
「はい……これは彼と彼女を繋いでくれた1人の女の子に捧げる祈りです」
その言葉に私はスクリーンに映される光景をただじっと見つめることしかできなかった。
隣の星宮がゆっくりと続きを口にする。
「その苗は2人を結び、大輪の花を咲かせ、そして大きな翼へと変わる」
スクリーンの赤い薔薇がゆっくりと咲き乱れる。そして瞬く間に花びらが落ちる。
画面の光景に少し悲しみに浸っていると、花びらが落ちた先から炎を
その姿は…………不死鳥
「あぁ……そうかこれは」
花はいつか散る
しかしてその心までは決して折れない。
何度も繰返し、何度でも咲き誇る。
繋いだ苗が実をつけ花になる。
折れない心
折れない翼
折れない羽
その想いは繰返し、ただ2人の最愛に捧ぐ
彼の想い、彼女の想いを繋いだ小さな想いは、いつしか大きな愛へと生まれ変わる。
彼の最愛……
3人の想いの結晶の名は……
『スモール・シード・フェニックス』
ピアノの旋律が激しさを増す、そして次第にギターやドラムも音を奏で始め客席の気温も高まる…………瞬間
ドパァーーーーーンッ!!!
「お前らー待たせたな!!」
「「「「「折羽ちゃーーーーーーん」」」」」
会場のボルテージが一気に高まり、火花とともに深紅のドレスを身に纏った黄金のお姫様が登場する。
「っんじゃ、早速1曲目行くぜー!!」
『スキンな彼は王子様』
♪教室のドア 見上げる私の〜視線
光る キミに 釘付けよ〜……♪
「この歌は、あの時のか!」
「はい、1年の時のスキンヘッド事件ですね」
「クラス中が爆笑だったもんな」
いつしか私の周りにクラスメイトが集まり、歌を聞きながら合いの手を入れてくる。
「あの時から突撃のクロエの伝説が始まったのか……」
「懐かしいわ」
そして、続いて2曲目
『チキンハートにおかわりを』
♪見た目で判断しないでね
意外とヘビーなおませさん
人気を集めるあの子はね
いつもでもみんなを待っている♪
「「「「「鬼ヶ島ッッッッ!」」」」」
「うぉ! 急になんだ……」
「この歌は観客の掛け声で盛り上がるんですよ」
「これって、クロエと藤宮さんが初めてバトルした日のやつだな」
「折羽の意外な一面が見れて、伝説を残した場面だね」
確かに彼女の大食いキャラは未だに学校でも語り継がれている。旦那の店でもファンが多いと言っていた。
そして、次々と曲が歌われていく。どれもこれもあの高校での場面が蘇る内容の歌だ。
「次の曲は、1人の女の子……私達の最愛に捧げます」
『稲穂舞う黄金郷』
♪ブランコで1人
空を見上げてキミは何を想うの
真っ白な雪に寄り添うのは陽の光〜♪
「沙苗の歌か……」
「みたいだな、それに今日は」
「あぁ……彼女の命日だ」
その歌声は天国にいる彼の妹に捧げた歌だった。
最期の瞬間を彩ってくれた黄金のお姫様。少し冷たいおにぎりの中には暖かな想いが詰まっていた。
それを歌詞にして今日この日に届ける。
パチパチパチパチ
歌が終わる。客席ではただ静かにすすり泣く声と、黄色のペンライトが光る。それはまるで黄金の稲穂。
「今日のこの日にライブが出来て良かった。ありがとうみんな」
歌う彼女からの言葉。天を見上げ手を合わせる。観客もバンドメンバーもそれにならう。
「じゃあここで、メンバーを紹介するぜー」
「「「「「うぉーーーー」」」」」
「まず初めに、今日は私達の高校時代のメンバーが集まってサポートしてくれたぜ! みんな拍手!」
「「「カッコイイぞー」」」
周りからの声援を受けて、バンドメンバーは照れている。
「アイツらもメジャーデビュー決まったらしいな」
「です! すごいですよね〜。まさかホントにプロになるとは」
「夢を諦めなかったからな! 尊敬するよ」
「……はい、それでは続いてお待ちかねのこの人の紹介です!」
ドラムローラの音に合わせて、スポットライトが彼にあたる。
バンッ
「どうもー! スモール・シード・フェニックスの
ピアノから立ち、観客に向かって一礼して手を振る。久しぶりに見た彼の姿は、身長も少し伸び
「「「「「「突撃のクロエェェェェェ!!」」」」」」
「私の曲を作って〜」
「ラブソングを〜」
「うぉぉ! なんじゃこりゃ、すごい声援だな」
「はい、彼の作る曲は大人気ですからね」
「そして、最後に紹介するのは……もちろんこの人」
彼がマイクを受け取って挨拶をすると、隣の彼女へとゆっくりと歩を進める。
「我らが歌姫、黄金のお姫様、鉄拳の乙女、おにぎり大好き、卵焼きは甘口派でお馴染みの〜」
「待て待て待てッ! 後半はただの好みの話だろ」
アハハハハッ
会場からは笑い声が聞こえる。何処に行っても彼と彼女は変わらないな。
「そんなわけで、どうぞ〜」
「どんなわけだよッ! はぁ〜まっいっか」
そして彼女は隣の彼の手を握り頭上に上げながら名を告げる。
「どうも〜スモール・シード・フェニックスのボーカル、
「「「「「「折羽ちゃーーーーーーん」」」」」」
「かわいいー」
「おりは様〜」
彼に負けず劣らずの人気だ。熱狂的過ぎるファンもいるようだが……
「しかし、アイツらにはビックリしたぞ。私の教師生活で前代未聞だったからな」
「俺達も度肝を抜かれたぜ、まさか……なぁ」
「うん、学生結婚するとはね」
そう、彼と彼女は学生の内に結婚したのだ。それも高校3年生の時。
「あの時は何事かと思ったぞ、いきなり藤宮がクロエを連れ出した時はな……」
「はい、その後お昼過ぎに帰ってきたと思ったら……『結婚しました』って堂々と言ってたからね」
私はその時の光景を忘れないだろう。あの後生徒指導室で詳しく聞くと、どうやらその日はクロエの誕生日だったらしい。
それで藤宮の出生時間に合わせて婚姻届を出しに行ったとか。
「あの頃の2人の立場って、逆転してたよね」
「うん、藤宮さんの方がグイグイ押してたもん」
付き合い出してからの彼と彼女のバカップル振りは学校の名物になっていた。
「それより私達が驚いたのは、藤宮さんが生徒会長になったことだよ」
「あぁ、確かに! でも初めはクロエが立候補してなかったか?」
「うん、でも折羽に聞いたら……『お前の下に付くのがなんか嫌』って言ってた」
「ぶはははっ……藤宮さんらしいな」
「それで結局はクロエ君が選挙で負けて副会長の座で収まったけど、あの時はすごい戦いだったね」
「懐かしいなぁ」
私もクラスメイトもそんな事を思い出しながら彼と彼女達の曲を聞いている。そして……
「んじゃ、最後の曲だぜー」
「「「「えぇーーーーー」」」」
「終わらないでー」
観客の悲しむ声が会場内を駆け抜ける。それでも始まりがあれば終わりがくる。
だからこそ、彼女はこの曲を歌うのだろう。
「……聞いてください」
『アゲイン』
♪何度でも 何度も繰返して
私の心の隙間 埋めてくれたね
白いページ めくると そこにはいつも
鮮やかな 花が咲くよ
……………………
……………………
彼と彼女の始まりの歌
青春の一ページ
きっとここから全ては始まった
もがいて、苦しんで
それでも前へ進もうとする勇気
何度も繰返す事で見えるもの
……………………
……………………
この想いを いつかあなたへ……♪
ピアノの旋律が止む。彼女の歌も。
時間が止まり、ゆっくりと動き出す。
「「「「「「「最高ぉぉぉぉぉ!」」」」」」」
色とりどりの光に見送られて、彼と彼女は舞台袖へと消えていく。
「成長したな……2人とも」
◆
「ふぅぅ……いっぱい歌ったよぉ」
「お疲れ様、折羽! 最高だったよ」
「……届いたかな」
「うん、届いたよ僕達の想いは」
「……うぅ……ぐす」
僕は頬を濡らす折羽の隣にしゃがみこむ。
今はこの場に誰もいない。
「ありがとね、この日にライブしてくれて」
「……私も、今日したかった……から」
「うん、特等席で見てくれてたよ」
僕の胸ポケットには、沙苗の写真が入っている。
「ありがとう、渚」
「こちらこそ、折羽」
僕と彼女は見つめ合い、そっと口づけを交わす。
彼女の理想に近づく為に
彼の理想に近づく為に
僕は
私は
何度も繰返してきた。
それも、今日でおしまい。
だって、もう繰返す必要がないのだから。
僕の隣には
私の隣には
『最愛の人がいるのだから』
彼女の理想に近づく為に、僕は何度でも繰返す
~完~
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