第43話 彼女の提案

「ミュージカルってどういう事、藤宮さん?」


 お化け屋敷を提案していた女子生徒が尋ねる。それはクラスの意見をまとめたものでもあった。


 折羽はなんでもない事のように口を開く。


「皆の意見がバラバラなら、まとめようって話だ」


 とはいえ、まとまらないからこうして揉めているのだが……


 と、ここで僕は何かに納得したように、折羽を見つめる。


「だから、ミュージカルってことか……」

「そゆこと! 理解が早いな渚は」

「えっへへ〜」


 夫婦漫才は他でやれと言われながら、折羽は説明を続ける。


「いいか、まず大まかな項目としては演劇になる」

「……う、うん」


 姫乃さんに視線を向けて彼女は話す。


「そして、舞台としては……そうだなぁ、中世のヨーロッパ辺りだったらメイド服を着てもおかしくないだろ?」

「……中世のヨーロッパ」


 メイド喫茶組に向けての言葉だ。さらに……


「内容としては、まぁゴーストが出てくるならお化け屋敷の格好でも言いわけだ」

「なるほどッ! そういう事か」


 ここでようやくクラス内が理解し始める。


「でもよぉ、俺達はバンドなんだぜ、一体どこに出番が……」


 その質問には僕が答えた。


「だからミュージカルなのさ!」

「ミュージカル……」


 そして説明を続ける。


「演劇や舞台を観に行った人ならわかると思うけど、基本的には音楽は録音したやつを流している……つまり」


「あっ!」

「そういう事……」

「これは、もしかしたら」


 バンド組も薄々気づき始めている。なので僕と折羽は2人で笑って答えを言う。





「「生演奏のミュージカル」」




 一瞬の静寂の後……僕と折羽のその言葉に、クラス内を異様な雰囲気が包み込む。いや……これは熱量の高まりかもしれない。



「これなら、私達もコスプレできる」

「あぁ、メイド服も違和感なく」

「俺達のバンドが、ミュージカルの曲に」

「こりゃ、脚本大変になるね」


 先程までの言い争いはどこへやら、お互いの特性を理解し合うように今度は意見交換等を始めている。



 最後にクラス全体に意見の可否を問うてみたが、この熱は冷めることがないというように、折羽の提案は満場一致で可決されたのだった。


 僕はふと彼女の横顔を見る。偶然にも折羽も僕の方を向いていたのでバッチリと目が合う。綺麗なその瞳は一瞬大きく見開かれ、そしてスっと弓なりになる。


「やったね折羽」

「ま、まぁな、たまたまだ……」


 顔を赤くしてはにかむ彼女は、とても可愛いかった。


(んもぅ! 折羽ったらめちゃかわッ!)




 僕は今の話を聞いてもう1つ、重大な事を頭の中で考えていた。

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