第42話 彼女と二学期

「おはよう

「? お、おはよう」


 僕はいつも通りの挨拶を彼女にする。祭りで僕は伝えたい事は言えたからあまり引きずるのは良くないと思い平静を保っているのだ。


(本当は、もう少し伝えたい事があったけど、昨日はアレで精一杯だったから)


 そんな僕の挨拶に彼女はどこか不思議な顔で返事をする。なにかおかしな事があったのかな?


「おはよう、なぎ……さ」

「が、学校でも名前で呼んでくれるの? というか……いいの?」


 コクリと頷く彼女は少し頬を染めていたが、何かを決心した表情をしていた。


「わ、わかった……じゃあ僕も。お、折羽」

「お、おう。二学期からもよろしくな」


 昨日限定だと思っていたけど、今後も名前で呼んで良いなんて……渚感激ッ!!


 一方クラスメイトはというと……


「とうとう、あのクロエが……」

「夏休みに何かあったんだね、藤宮さん益々キレイになってるもん」

「だな、入学から苦節4ヶ月、やっとアイツにも春が……」

「やべ、なんか泣けてきた」


 どうやら勘違いをしているのと、間違った方向への歓迎ムードらしい。


「いや、まだ僕達は……」


 と言おうとして、席を立ち上がる僕に前から手が伸びて椅子に座らされた。見ると折羽が手を握って僕に顔を近づけて耳元で囁く。


「勘違いさせておいた方が、今後動きやすいぞ」

「えぇ……いいのかなぁ」

「今まで散々やってきたのはお前だ……」

「まぁ確かに……ふじ、折羽がいいなら」


 僕達は互いに暗黙の了解を作るように頷き合う。そしてクラスメイト達の噂を軽く流しておいた。


 キーンコーンカーンコーン


「うぃ〜す……お前ら、夏休みボケはしてないだろうな〜」


 チャイムと共に入って来た、園田先生が1番だらけている気がするんだが……


「2学期初日だからな、テキトーにホームルームして終わりだ」

「テキトーにって……何か決める事とかあるんですか?」


 園田先生は眠そうな目を擦って、そう言えばと言って話題を振る。


「2学期は文化祭があるからな、まだ早いが何をしたいかぐらいは決めてもいいんじゃないか?」


 文化祭の一言にクラス中がざわめきだす。


「おぉ! ついに」

「高校最初の文化祭」

「たこ焼き、綿菓子……食べ放題」

「あんたは食べることばっかりね」


 なんて会話があちこちから聞こえる。そして先生はいつものように委員長の僕達に振る。


「てな訳で、後は委員長に任せるわ! おやすみ……」


 久しく見る園田先生は、相変わらずのだらけた先生だった……


(よくこれで教師になれたもんだよ……)


 心の中で愚痴を言いつつ、僕と折羽は教壇の方に向かい皆の前に立つ。


「それでは、クラスの出し物の候補がある人、挙手で」


「「「はい、はーい……」」」


 文化祭の時はみんな意見を言うんだね……わかってたけどね。結局候補が多すぎて、まとめるのに悪戦苦闘していた。最終的に残ったものは……


 メイド喫茶

 お化け屋敷

 バンド演奏

 演劇

 クロエの屋台


 待って、最後のクロエの屋台って何?


「クロエが定食屋でバイトしてる事は知ってるからな、それでそこのメニューをと思ってな」

「僕の負担が大きいので却下です。それに飲食系は他のクラスもやるハズだから売上が見込めない」

「確かに……」


 どうやら納得してくれたみたいだ。さて、残る4つで多数決を取るか……


「残り4つで多数決を取りたいと思いまーす」


 と言ってはみたものの各々意見を出した人がそう簡単に引く訳もなく三つ巴ならぬ、よつどもえの戦いが勃発していた。


 メイド喫茶組

「せっかくの文化祭なんだなら女子のメイド服が見たい!」


 お化け屋敷組

「仮装ができる最大のチャンスじゃん」


 バンド組

「俺達の熱い歌を聞けーー!」


 演劇組

「練習したものを文化祭で披露したい」


 しっかりと自分の矜恃を持っているから、なかなかまとまらない。時間だけが過ぎていく中、折羽がため息混じりで口を開く。


「はぁ……じゃあいいんじゃね?」


 その言葉にさっきまで言い争いをしていた連中は固まる。そして、代表して姫乃さんが問いかける。


「ま、まとめるって言っても、この4つをどうやって……」


 コクコクと頷くクラスメイト。確かにどうやってこのカオスな状況をまとめるというのだ。しかし、折羽は別に難しく無いだろと言いたげにサラッと口にする。




にしたらいいじゃん」


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