第29話 彼と成果

「ふ、藤宮さん!!ねぇ、ねぇ見てこれ!一大事!」

「……ふあ?なんだぁ?」


 藤宮さんは授業中の少しの休憩時間を使って寝ていたのだが、僕のテンションアゲアゲの声に不機嫌ながらも返事を返す。


「昨日の小テストだよ!見てコレ!」

「あぁ、さっき返された現代文のやつか」


 そう言って僕は藤宮さんにテストを見せる。


「えーとなになに…………マジか」


 藤宮さんは僕から手渡された解答用紙を見て驚愕の一声をあげる。


「えっへへ!すごいでしょ!過去最高得点だもんね」

「それも……マジか」


 僕の現代文の点数は過去最高の数字。

 ………………

 …………

 ……

 黒江渚……5点


「………お前、どうしたらこうなる?」

「そんなに褒めないでよ〜」

「褒めてないんだが……あんなに姫乃が教えたのに5点って。10点満点じゃねーんだぞ?」


 藤宮さんは呆れた表情で僕にお説教を始めた。こんなに藤宮さんの声が長く聞けるなら、もうちょっとこのままでも良いかなと思う僕は……色々と末期なんだろう。


「……聞いてるかクロエ?」

「うん!藤宮さんの声が素敵だから心の蓄音機に録音してた」

「蓄音機ってまた古風な……」

「えっへへ!」

「褒めてないんだが……」


 藤宮さんとの会話を楽しんでいると、にっくきあんちくしょーがあらわれた。


「折羽ちゃん昨日の小テストどうだった?」

「姫乃か……お前のおかげで少しは良くなったぞ!」


 藤宮折羽……68点


「わぁほんとだ!昨日の難しさのテストでこの点数は凄いよ!」

「ちなみに姫乃は?」

「……85点でした」


 ちょっと恥ずかしそうに姫乃さんは小声になりながら呟いた。そして僕は……


「ちっ……」


 舌打ちをしていた。


「おい……」

「なに藤宮さん?」

「せっかく教えてもらってるのに舌打ちはねぇだろ?」


 藤宮さんは少し怒った感じで僕を睨んでいる。怒った顔も素敵だが、僕は藤宮さんを困らせたい訳じゃない。


「ごめんなさい星宮さん」

「い、いや別に気にしてないよ」


 僕は渋々と言った具合に姫乃さんに謝る。そんな僕はまだ苗字呼びのままだ。


「ったく、素直に謝ればそれでいいんだよ」


 藤宮さんはとにかく真っ直ぐな性格なのだ。


「藤宮さん……」

「なんだよ?」

「名前で呼んじゃダメ?」

「ッ!ダメだ、まだ早い!」

「いつならいいの?」

「いやぁ、それは……その」


 姫乃さんが遠い目をしている。また始まったかという感覚なのかもしれない。そんな姫乃さんは藤宮さんの机にある僕のテストを見て声をあげる。


「ひぃッ!」


 僕と藤宮さんはその声に思わずハモリながら真似をする。


「「ひぃ?」」


 藤宮さんと僕は声の主を見て疑問顔になる。


「姫乃どうした?」

「か、かか……」

「蚊?」

「か、解答用紙の裏に……」


 姫乃さんは紙の上を指さす。


(そう言えば……クロエのヤツがどの問題を正解したのか見てなかったな)


 藤宮さんは指の指された方をチラリとみる。そして机を見た瞬間……


「……おい?」

「なに、藤宮さん?」

「これは?」

「藤宮さんへの愛のポエムだよ!タイトルは『この想いよどこまでも』だね!」


 藤宮さんが固まっている。姫乃さんも声を出す事を忘れている。

 何故なら……解答用紙の裏にはビッシリと文字の列。その様はお経のように精密な配置。


「……お前……字……綺麗に……なったな」


 流石の藤宮さんもこの文字の暴力には魂が耐えられなかったのだろう。僕を初めて褒めてくれた!


「んもぅ……藤宮さんてば褒め上手ッ!」


 余談だが、僕の解答用紙には園田先生からこんな一言が添えられていた。





『5点やるから勘弁してくれ……』

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