第27話 彼女と弁解と提案

「ぶっす〜」

「おいクロエ、いい加減機嫌なおせよ?星宮困ってんだろ?」

「いや、あのいいの藤宮さん……私が悪いから」


 あの後、なし崩し的に和解という形にはなったが僕は納得していない。


「そんな表面的な謝罪されても意味無いけどねッ」

「……」

「まぁまぁ仲良くしよーや!今後勉強教わるんだからな」

「だから僕は別に……」

「今度デートしてやるよ」

「教えて星宮さん!僕、物理がちょっと苦手なんだ!」


 チョッッッロ!!!


「てかお前、物理以外にほとんど苦手じゃねぇか」

「失敬な藤宮さん!国語は御茶の子さいさいだよ!」

「御茶の子さいさいっていつの時代だよ……」


 僕と藤宮さんの掛け合いを見ていた星宮さんが恐る恐る口を開く。


「あの……クロエくん……」

「何?」

「二人は付き合ってるの?」

「うんそうだよ!親公認の仲(大嘘)」

「えっ……そうなんだあ」

「誰がこんな和尚みたいなやつと付き合うかよ!」

「えー酷いよ藤宮さん……藤宮さんがこの髪型が良いって言ったんじゃん」

「私はそこまでしろとは言ってない……それはお前の自業自得だ」

「いけず〜触ったら案外気持ちいいかもよ?」

「触れねぇってば……」

「じゃ、じゃあ私が……」

「それはダメ!」

「ひどッ!なんで?」

「好きじゃないから」

「もっと、酷い……」


 星宮さんはガックリと項垂れている。そんな星宮さんの肩を優しく叩いて慰める藤宮さん。


「クロエ……お前ってほんとに容赦ねぇな」

「それほどでも〜」

「ほめてねぇよ!まぁ……もちょっと優しくしてやれや!頼むから」

「むむむむむ……藤宮さんがそう言うなら」

「じゃあ触っても?」

「ダメ……」

「あう……」


 しくしくと泣く星宮さん。しかしこれ以上はどうしようもないといった具合に藤宮さんはお手上げ状態だ。そして少しして立ち直った星宮さんと話を進める。


「で、具体的には何をするの?」

「まぁ勉強だな」

「僕、放課後バイトだけど……」

「休み時間とかに少しずつ始めていくのはどうだ?星宮」

「うん、最初は少しずつからでいいと思う」

「いやだ。僕と藤宮さんの大切な食事の時間が無くなるじゃないか」

「そうはいってもなぁ……このままだとホントに夏休み遊べなくなるぞ?それでもいいのか?」

「いいよ!藤宮さんと一緒に補習なら」

「テストで頑張ったら海に二人で泳ぎに行ってやるよ」

「星宮さん!僕は寝食も忘れて励んで参る所存です!」


 ホントに激チョロじゃん……


「クロエくん……そんなに藤宮さんの事が……」


 小さな声で俯く彼女が何を言ったのか僕には聞こえなかったが、隣にいる藤宮さんはしっかりと聞こえていたみたいだ。そんな彼女は少し考えた後、話を元にもどした。


「最初のうちは休み時間だが、ゆくゆくは放課後や休日を使って勉強会ってのも考えてる」

「プライベートでも藤宮さんに会えるって事?」

「ま、まぁ……そういう事だ」

「……はどうしよっか?」


 ここで私はトイレでの打ち合わせ通りに動いてくれた星宮に感謝する。


「そうだなぁ……場所か……」


 私は白々しいまでの大根演技だったと思う。隣の星宮が俯いて肩を震わせているのだから。


「確かに難しいよね。僕のバイト先じゃ迷惑掛けちゃうし……かと言って他のお店にいくお金ないし……」


 よし、もう一押しだ!


「だよなぁ……私の家も家族居るしなぁ……星宮はどうだ?」

「えっと……私も弟と妹が居るから難しいかも……」

「うぅむ……クロエそういえばお前にも妹がいたよな?」

「えっ?あ、うんいるよ……言っとくけどいくら藤宮さんだからってあげないからね!」

「そうじゃなくて……お前の口からの話を聞いた事がなくてな?なんの仕事してるんだ?」

「えッ?両親?……えっ……その」


 彼は明らかに動揺している。きっと何か言えない事情でもあるのだろうと推測するが、ここはもっと切り込むべきと私は言葉を続ける。


「もしお邪魔じゃなければ、クロエの家で勉強会しようぜ!私も妹さんに会ってみたいし」

「わ、私もクロエくんの家族に会ってみたい」


 視線を交差させる私と星宮……ここまでは計画通り。後は彼次第なんだが……


「えっと……まぁ……いつかね」


 彼は凄く端切れが悪かったが、なんとか了承してくれた。その事実に私は心のしこりが少し和らぐのを感じながら話を再開させる。


「まぁ、しっかりテストでいい点とって、夏休みは遊ぶぞーー」

「おーー!!」

「お、おーー」


 こうして不思議な関係でできた三角関係は始まりを告げる。この関係が後に彼の隠された真実に辿り着く事は今はまだ誰も知らない。



 下心と恋心……疑心暗鬼と暗中模索の渦の中物語は繰返される。

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