第25話 彼女と協力者

「藤宮さんおはよう!今日も可愛いね!付き合ってください」

「お、おう……」


「…………えっ?」

「ん?えっ?」


 2人とも固まっている……もう一度言ってみよう。


「藤宮さんおはよう!今日も可愛いね!付き合ってください」

「断る」

「だよね〜」


 どうやら別の世界線の藤宮さんだったみたい。


「昨日の交換日記読んだよ」

「おう……で、どうだ?」

「う〜ん……難しいかもねぇ」


 僕は珍しく藤宮さんの提案に首を横に振っている。


「理由を聞いても?」


 藤宮さんは至って普通に接しているが、時折視線が泳いでいる。藤宮さんが何かを考えている時によくする癖だ。


(僕の藤宮さん熟練度がだんだん上がってる)


「えっとね〜妹は……ちょっと体が弱くてね……その、あまり外では遊べないんだ!」


 藤宮さんからの提案というのは、『妹も一緒に家に遊びに来ないか?』だった。


「……どんな状態なんだ?」


(あれ?今日の藤宮さんはぐいぐいくるなぁ……)


「うん?あぁ、まぁ……ご飯が美味しく食べられる状態?」

「そういう事じゃないんだが……」

「あはは……」


 藤宮さんはしばらく僕を見つめていた。


「藤宮さん……いいよ」

「は?」


 僕は藤宮さんの気持ちに気づいてしまった。女の子を待たせては申し訳ない。そんな積極的な藤宮さんも好き。


「キス……でしょ?」

「ッ!ちげーよばーか!どうやったらその発想になる?」

「えー、だってじっと見つめてたから……キス待なのかと」

「キス待ちなのはお前だ!私はただ妹の事を聞いただけ!写真とかねぇのかよ?」


 僕は藤宮さんの返しに落胆しながらも生徒手帳を藤宮さんにみせる。


「なんだよ?」

「めくってみて……1番最後のページ」


 藤宮さんは僕から渡された生徒手帳を訝しげにめくる。


「……妹か?」

「うん!とびっきり可愛いでしょ自慢じゃないけど、藤宮さんと妹だったら僕は妹を選ぶね!」

「そりゃまた……」

「そして藤宮さんにはさなのお姉さんになってもらう!」

「ん?」

「僕達は結婚して、さなと藤宮さんと3人で仲良く暮らすんだ!」

「は?」

「どう?藤宮さん!磐石の人生設計だと思わない?」

「穴だらけだわッ!」


 藤宮さんは呆れながら生徒手帳を返す。そして、トイレに行くと行って立ち上がり教室を後にする。


 ◆◆◆◆◆


(あの写真の子……どこかで見たような……あぁちくしょうッ!思い出せねぇ)


 クロエの妹だと言って見せてもらった写真の子。

 髪をサイドテールにしてオーバーオールを着た女の子。年齢は小学生ぐらいだろうか?ピースして可愛らしく笑う姿は……確かに天使のように見えた。


(あの写真……ボロボロだったな)


 私はなるべくその事に触れず、席を立った。


(あぁ、なんかモヤモヤする!)


 ガシガシと鏡の前で頭をかきながら自分の顔を見る。なぜ最近アイツの事ばかり考えているんだろう?

 その疑問に答えてくれる人は……誰もいない。自分の心さえもわからなくなっている。


 ギィィ

 トイレの個室が開く音と共に声をかけられる。


「ふ、藤宮さん?」

「あぁ?」


 私の言葉にビクッとする女子生徒


「あの、どうしたの?」

「……誰だお前?」

「ひどッ!私だよ私!」

「新手の詐欺か?」


 ほんとに誰だと言っているのだが、彼女は冗談だと思っている。


「ほら、同じクラスの星宮だよ」

「ほし……みや?」

「うん!美化委員の!クロエ君が『宮繋がり〜』とか言ってたじゃん!」


 私は再び考える振りをしたが……やっぱり思い出せない。


「ん?あぁそっか……それで星宮、なんか用か?」

「用っていうか……トイレから出たら藤宮さんが困った顔してたから……それに」

「それに?」


 私は星宮の顔をじっと見る。なにかモジモジして言いにくそうだ。それでも今しかないと思ったのか彼女は口を開く。


「それに……この前の事……謝りたくて」

「この前?」


 頭にはてなを浮かべる私に続けて説明する。


「その、テストの結果の事で……私は黒江くんみたいに反論出来なくて……間接的に藤宮さんを傷つけたったて思って。黒江くんのあの言葉に衝撃を受けて……」


(そういう事か。別に気にしちゃいねぇんだがなあ)


「その事なら別に……」

「……?藤宮さん」


 私は途中まで言いかけてふと、ある事を考える。


(こいつにも協力してもらおうかなぁ……)


「ふ、藤宮さん……顔が……怖い」


 私はニコッとした笑顔で彼女の肩に手を乗せる


「なぁ……あの事で私の心は傷ついた」

「えっ、いやさっき……」


 グッと力を入れて私は


「傷ついたから、ちょっとお願いを聞いてくれ」


 コクコクと頷くしかない彼女は少し涙目になっていた

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