第13話 彼女と手紙

「……はっ?」

 藤宮さんは間抜けな声を出して固まっている。僕はニコニコとその顔を見る。


(藤宮さんのその顔も可愛い!)


 すると彼女は再度尋ねてきた。


「スマホを持ってない?」

「うん」

「あーあれか!ケータイか!わりぃな気づかなくて」

「えっと……」

「じゃあ赤外線か!あれっ?私のスマホ赤外線あったかな?」


 藤宮さんは自分のスマホをクルクル回しながら赤外線部分を探している。


「あの、藤宮さん……実は」

「なんだよ……せっかく連絡先交換しようって言ってるのに」

「いや……僕、ケータイも持ってないんだよね」


 アハハッと笑う僕、再度固まる藤宮さん僕につられて笑い出す。


「あはははは……はぁ?マジで?」

「まじです」


 沈黙


「嘘だろ?今どきそんなやついる?冗談だよな?」

「いやぁ、あはは」

「……マジかぁ」


 藤宮さんは僕の顔を見てやっと半信半疑ではあるが理解してくれた様子


「今までどうやって過ごしてた?」

「特に連絡する人もいなかったし必要ないかなーって」

「親は?」

「……家に帰ればいるし」

「友達は?」

「……友達いないし」

「……すまん」

「気にしないで!僕には妹と藤宮さんが居ればいいから!」


 僕は手をワタワタさせながら返答した。


「ん?妹がいるのか?」

「うん!沙苗さなえって言うんだけど、すっごく可愛いよ!」

「へぇ、ちょっと見てみたいかも」

「うん……いつかね」


 僕は連絡手段がないので、クラスのグループや部活の集まりとは程遠くその為情報も遅い。

 しかし、僕にとってはそんな事どうでもいい事だ。妹と藤宮さんが居ればいい。でも、学校外でもちょっと藤宮さんとお話してみたかったのは本当だ。


「あっ!そうだ藤宮さん!」

「なんだよ?」


 ここである事を閃いた!


「手紙をやりとりしない?」

「て、手紙?」

「そう手紙!」

「なんでまた……あっ」

「僕も藤宮さんと学校以外でもお喋りしたい。バイト中は無理だし、スマホ持ってないし。だから交換日記として手紙のやりとりをしようよ!」


 この発想はなかなかいいと僕は胸を張れる。エッヘンといった具合に藤宮さんに提案してみた。その反応は?


「手紙かぁ……私書いたこと無いんだよなぁ」

「大丈夫!僕も初めてだから!お互いの初めてって事で!」

「言い方がヤラシイぞ?」

「だって好きだもん」

「理由になってねぇ」


 ポリポリと頭をかく藤宮さん。すると大きくため息を吐き


「……まっいっか」


 と小さく呟いた。


「で?どうかな藤宮さん?」

「……まぁ、いいんじゃね?その方がらしいよ」

「ッ!!」


 僕は驚きのあまり後ずさり、裏口に置いてある酒瓶を倒しそうになった。


「どした?」

「ふ、藤宮さん……いま、名前で……」

「あ?あぁ……その……まぁアレだ!美味い飯を作るやつに敬意を表しただけだ」


 言葉にする藤宮さんは夜の闇のせいでわからないが、少し声に焦りと緊張があった。


「んもぅ!藤宮さんてば素直じゃない」


 酒瓶が砲弾のように飛んできた。

 いや、そう思わせる藤宮さんの殺気だった。


(藤宮さん、とうとう幻術まで使うようになったのかな……それもいい!)


 こうして僕と藤宮さんの交換日記が幕を開けるのだった。

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