第12話 彼女は口下手

 最近の僕の日課は

 朝、藤宮さんに好きだと告げる。

 昼、藤宮さんに好きだと告げる。

 夜、藤宮さんに好きだと告げる。


 いつもは軽くあしらわれているが今日の放課後は少し違った。


「好きです付き合って下さい!」

「……はぁ〜あのさ?今月で何度目?」

「今日で10回目ですね!」

「うざい……帰れ」


 彼女はそう言うと教室から出ていくと見せかけて……


「なぁ、今日はバイトか?」

「うん、そうだよ」

「そっか……」


 一言だけ言い残し教室を出ていった。


「ふんふふ〜ん♪明日も藤宮さんに会える〜」


 僕の楽しみは藤宮さんに会う事!それだけだ!いや妹と遊ぶ事が最優先だけど……藤宮さんとの会話は楽しい!



 カランカランッ


「店長おはよーございます!」


 僕はいつもの裏口から店内に入る。


「おう!おはようさん!今日もよろしくな」

「はい!」

「それと、クロエの自称彼女さんが店内にいるぞ」

「えっ?」


 その発言に驚いて僕は慌てて店内を覗き見る。


(ホントだ!藤宮さんだ……待ってる姿も可愛い〜好き)


「なんでも、クロエが作った料理が食べたいだとよ!なんだぁ?ホントの彼女になったのか?」

「はい!(大嘘)」


 彼女はどうやら僕が来るまで待ってたみたい。そんな彼女の元へ着替えを済ませた僕が近寄る。


「藤宮さんお待たせ!ご注文をどうぞ!」

「ッ!おう……」


 彼女は少し驚いた様子だったが僕から渡されたメニューを見る。


「これは……?」

「せいやくしょ?」

「なんで疑問形なんだよ?てか字が汚ぇよ」

「だってさっき書いたから」


 彼女に渡したメニューもとい誓約書には


『わたくし黒江渚は藤宮折羽と正式にお付き合い致します。○月✕日』


 紙の下の方には藤宮さんの署名の欄がある。


「ふざけてないでメニュー持ってこい」


 お腹に軽く拳を当ててくる藤宮さん。


「……はい」


 僕は素直にメニューを取りにカウンターにむかう。幸い後ろを向いたせいで見えなかった。藤宮さんが誓約書を自分の鞄に入れるのを。

 きっと僕がその光景を見ていたらこう言っただろう。


「んもぅ!藤宮さんてば口下手!」


 その後、藤宮さんの注文(嵐のような勢い)を捌きに捌きなんとか閉店まで持ちこたえた。


 店内の清掃や仕込みを終え店を出ると、ふと甘い匂いがした。その匂いに誘われてふらふらと路地を進む。

 進んだ先には、金色の髪をなびかせた美しい天女、もとい藤宮さんが静かに佇んでいた。


(キレイだ……)


 呆気にとられた僕だったがなんとか意識を戻し藤宮さんに声をかけた。


「ふ、藤宮さん?どうしたの食べ足りなかった?」

「ちげーよ!十分食ったっての」

「そか、それなら良かった」

「おう。ごちそーさん」

「どういたしまして」


 沈黙。


「……。あのよ、その……なんだ」

「うん?」


 藤宮さんはいつもと様子がおかしい。


「あーえっとな、お前がバイトの時はここの定食屋に来てやるよ」

「ホント!うれしーいっぱい作るね!愛を込めて」


 僕は感激していた。藤宮さんから毎日会いたいなんて言われるとは……生きてて良かった〜


「だからさ……れ、れん、連絡先、教えろよ」


 彼女が差し出してきた手を見ると、近代連絡手段兵器『スマートなアイツ』が握られていた。


「えっと……」


 僕はどう返事をしたものかと悩んでいた。


「早くしろよ!」


 彼女は恥ずかしいのか少し焦っている。

 そんな姿も可愛いが、僕は真実を告げることにする。


「ごめん。僕スマホ持ってないんだ……」


「……はっ?」



 藤宮さんのその間の抜けた声も愛おしい

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