第10話 彼女はやっぱりよく食べる

 僕のバイト先は定食屋だ。

 それも男子学生が喜びそうなタイプ。

 謳い文句はこうだ


『ご飯のおかわり喜んで!超盛りアリのマシマシよ!我らに作れぬモノは無し!』


 なかなか豪快な文がデカデカと書かれている。


「クロエ、追加注文だ!ピザトースト五枚にナポリタン大盛り、トッピングに半熟卵とチーズ。それと食後にレアチーズケーキとティラミスだ!」

「わかりました!」


 僕はこの定食屋で働いている。妹の料理の要望を叶える為には好都合だ。そして賄いや余った食材を分けてもらえるのは大きい。


「それにしても今日は随分注文が入りますね」

「おう!なんでもホールの連中曰くスゲー食べる子達が居るみたいだ。それで追加注文の嵐って訳だ」

「なるほど……」

「クロエには厨房に張り付いて貰うことになるがよろしく頼む!」

「わかりました!あっ店長!今度パエリアのレシピ教えて下さい!」

「ん?パエリアか……わかった調べとく」



 一方店内では……


「スゲー」

「なんだあの姉ちゃん達」

「お姉ちゃん頑張れー」

「どっちも負けるなー」

「いいぞー」


 そこには金髪ポニーテールと黒髪ショートの学生服を着た二人の女学生が凌ぎを削っていた。

 いや……バトル……フードファイトを繰り広げていた。


「……なかなか……ングッ……やるわね……ゴクンッ」

「……そっちも……グビグビッ」


 そこには藤宮さんと知らない女子学生がいた。隣同士に座った彼女達はいつしか互いに睨み合い、いつしか食べる手を止めずにいた。

 そしてどちらから言った訳でもなくフードファイトが幕を開けていた。


「金髪姉ちゃんの分は俺が出す!」

「なら俺は黒髪姉ちゃんだ!」

「俺達も加勢するぜ!二人の食べっぷりは最高だ!」

「お姉ちゃん達すごーい」


 ちびっ子も加わり、応援合戦の嵐!そして二人に充てられて店内の人の食も進む!


 だってあんなに美味しそうに食べてたら、嫌でも食べてみたくなるもの。

 それからさらに一時間。


「今日の食材が尽きました!!この勝負引き分け!」

 店長の一声


「「「「うぉぉぉぉぉぉ!!」」」」

 店内大歓声


「凄いぞ姉ちゃんズ!」

「感動した!」

「またやってくれ!!」

「お姉ちゃん達サインしてー」


 そんな中、二人は。


「まだ……余裕……ふぅふぅ」

「わた……し……もよ」


 どう見てもギリギリだった。

 それからCLOSEの看板を出し早めに閉店。


「いやー二人のお陰で過去最高の売り上げだったよ」

「よかったですね店長」

「あぁ!できればまた来て欲しいものだ!」


 食器の片付けと翌日の仕込み、ホールスタッフは店内の清掃をしている。そんな中、僕はどんな人が来たのかと店長に聞いた。


「一人は黒髪ショートの女の子だったな……確か制服は白雪女学院だったかな」

「もう一人は金髪ポニーテールの子。そういえば黒江と同じ学生服を着てたぞ?」


 黒髪ショートの女の子は知らないけど、僕と同じ高校で金髪ポニーテールは彼女一人しかいない。


「金髪ポニーテールの子僕の彼女です」


 僕は躊躇いなく嘘をついた。


「なにッ?」

「マジか?」

「嘘だろ?黒江に彼女?」


 掃除をしていた周りの目がギロりと僕をみる。


「まぁ冗談だよな!お前にあんな綺麗な彼女なんてな」


 ガハハと笑う店長。


「嘘じゃないですよ?僕は毎日告白してますし!彼女の意思がまだ決まってないだけで時間の問題です!」


 なんだ……そういう事か、と周りは納得し蜘蛛の子を散らすよう業務に戻っていった。


「まぁお前が女子に興味を持つのは珍しいからな……かれこれお前とは五年の付き合いか……」


 店長は懐かしむような…悲しいようなそんな顔をしている。


「まっいい傾向だ!晴れて高校生になったんだ!バイト代は弾ませてもらうぜ!」


 店長は僕の頭をガシガシ掴んでニコッと笑う。

 豪快な人だ…そしてゴツゴツした手。

 僕にお父さんがいたらこんな風にしてくれたのかな……


 作業が終わり賄いの食材をもらい帰路につく。愛する妹が待つ我が家へと



「ただいま〜さな……」

 

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