第9話 彼女の表情


 クラス中は衝撃に包まれていた。

 だって昨日までボサボサ髪だった一人の人間が、翌日にスキンヘッドになって登校しているのだから。


「お、お前どうした?」

「何があった?てかクロエか?」

「どうしたの黒江くん?いじめられたの?」


 クラス中がざわめいている。

 担任の園田先生も目を丸くして僕に質問してくる。


「黒江……何があった?ホントにいじめられてるのか?」


 それに対して僕は正直に答える


「藤宮さんがボサボサした髪の男は嫌いって言ってたので」

「……で?」


 かたづを飲むクラスメイト


「藤宮さんに相応しい男になる為に、髪の毛を切りました!」


 その瞬間クラス中が大爆笑した!


「ブハハッ」

「やべー本物だぁぁ」

「黒江くん、天才!」

「こりゃあいよいよ逃げられねぇぞ」


 笑いの連鎖は収まらず


「ちなみにクロエ……その……散髪する時になんて注文したんだ?」

「ん〜……藤宮さんの好みがわからなかったから、家にある写真で一番髪の毛の少ないやつを見せたよ」


 そう言って僕は一枚の写真…もとい絵を見せる


「こ……これって」

「あぁ……これは」


 その絵とは……

 和紙でできた長方形の札、その中に和歌が書いてある…………坊主の絵だった


「百人一首じゃねぇかぁぁぁぁ」

「ギャハハハハ天才がいるぉぉぉ」

「私……もうダメ……アハハッ」

「お腹いたーい!笑い死ぬぅぅ」

「突撃のクロエはぶっ飛んでる」


 笑いの上限を軽く吹き飛ばす程の高評価だ。そんな中、藤宮さんは口を大きく開けて放心状態だった。


「藤宮さん!僕は君の好みの男に近づけたかな?」

「……いやなんでよ!何してんの?自分の髪をそこまでする普通?馬鹿なの?」


 藤宮さんは今まで見た事ないぐらい慌てふためいている。


「そんな表情の藤宮さんも好きだよ!付き合って下さい!」

「付き合わねぇよ!怖ぇよそんな事してくるやつ!普通躊躇うだろ?」

「藤宮さんの為ならどんな事でもするよ!」

「もう……ヤダ」


 藤宮さんはバタンキューっと言った具合に机に突っ伏した。


 それから授業は進み、各教科の先生は僕の頭を見ると途方に暮れていた。そして事情を説明するのが面倒だった。


 昼休みは藤宮さんに逃げられ、放課後はダッシュで教室を出ていき、結局お話する事は叶わなかった。


「んーまた別の作戦を考えるか……」


 僕は藤宮さんの好みを知るために次の作戦を練るのであった。


「さて、今日もバイトだ!」


 僕は足早に教室を後にする。バイト先で藤宮さんとすれ違うとも知らずに。

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