第8話 彼女の好み
「藤宮さん、今日も可愛いね!付き合おう」
「病院は、あちらの入口です」
「いや、あちらは窓になりますが…」
「ヘルゲートです」
「この想い!現世でとどめたい!」
食パンと食券の貢物をして以降の藤宮さんは、少しずつ会話をしてくれるようになった。気のせいかもしれないが口調も柔らかくなったと思う。
「いっぺん飛んでみる?」
ゾワッ
地獄の窓からこんにちは!
訂正。変わったのは殺気でした。
「うぃーす。ホームルーム始めるぞ〜委員長後よろしく〜」
園田先生が教室に入って来たかと思うとそんな冗談を飛ばして来た。
「何も聞いてないんですけど……」
「何も言ってないからな!それくらい察しろ!女心をわからないようじゃ藤宮に逃げられるぞ?」
彼女は僕に恨みでもあるのか?
「やれやれ……酔っぱらいの心なんてわかりたくもない」
音速の貴公子も高速で帰りたくなる程のスピードで名簿が飛んできた!
「見切った!」
最近の僕は反射神経と物理耐性が付いてきた。主に藤宮さんのお陰で。
「甘い」
なんと藤宮さんが横合いから、ペンを投げ名簿の軌道を変えてきた。
そして、見事……
「ぐふぅ……衛生兵を呼んでくれ……」
俺は机に赤い花を咲かせながらプライベートゾーンへと旅立った。
「最近の藤宮さん変わったよねぇ」
「うんうん!前より柔らかくなった」
「クロエの功績か?」
「うーん…どうだろう?」
担任の園田先生はそんな周りの様子と藤宮さんを見て少し嬉しそうなそれでいて寂しそうな表情をしていた。
昼休みになるといつものように食堂へ歩を進める藤宮さん。僕はその後をつける。すると、食堂へと続く階段で上級生らしき人が藤宮さんに声をかける。
「キミかわいいね!俺の彼女になりなよ」
「……」
藤宮さんは無視して歩を進める。
「ちょちょちょッ!俺だよわかんない?」
「誰?」
「キャーモテ川くんよ!」
「かっこいい!」
「モテ川くーんこっち向いてー」
どうやら彼はモテ川というらしい。
「で?」
「いやだから俺がキミの彼氏になるって事!わかんないかな〜光栄な事なんだよ?」
「キモッ」
藤宮さんの強烈な言葉のボディブローが炸裂する。
「あはは、この学校一のイケメンを捕まえてキモいだって?何かの冗談かな……」
「いやマジでキモいから話しかけんな、消えろ」
ひくっ
モテ川先輩は、今までそんな事言われてこなかったらしく頬を引き攣らせている
「ってかそんなモサモサした髪もキモいし何より顔も性格も好みじゃない、なぁマジで消えろよ」
ついに藤宮さん伝家の宝刀、断罪の剣が発動した。その言葉を聞いた先輩は目に涙を浮かべて「お前なんて大嫌いだぁぁぁぁ」と叫びながら去って行った。
そして何事も無かったかのように歩き出す藤宮さんに僕は声をかけた。
「ねぇ藤宮さん!」
「おわっ!なんだチキンか」
「いや黒江だけど…」
「どうでもいいや、見てたのか?」
「藤宮さんってモテるんだね!」
その言葉に藤宮さんは、怪訝な顔をする。
「私の顔と体が好きなんだろ……いつものことさ」
藤宮さんはどこか儚げな表情を見せる。なので僕は話題変換を行う。
「ねぇ藤宮さんの好みって?」
「リブロースステーキ」
「うん、そうじゃない!それも有難い情報だけど!男の好みを聞いてるの!」
ポカンッとしてる藤宮さん。
やっぱり可愛い!
「藤宮さん、もっさりした髪の人嫌なの?」
「あん?まぁそんなとこ」
なんとも歯切れの悪い言い方だ。早歩きになりつつ着いていく。早くご飯が食べたい様子でお腹を抑えてろくに返事もしてくれない。
「じゃあ僕が髪を短くしたら付き合ってくれる?」
「知るかよボケ!自分で考えろ」
今の僕はお世辞にも身綺麗とは言えない。髪はボサボサで今は制服だからいいけど、私服なんて何年も着古した物だ。
「わかった!自分で考えるね!」
その翌日、黒江渚の新しい一ページが幕を開けるのだった。
翌日、朝の教室に入ると全クラスメイトが僕の方を見ている。藤宮さんも例外ではない。ホームルームの時間を過ぎているから当然先生もいる。
「お……お前」
「なんで?」
教室の扉には一人の………和尚が立っていた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます