背中の樹

生まれた時には何も無い綺麗な背中だった

僕もまたそうだった

一歳を過ぎた頃、僕の背中には小さな芽が生えた

家族は僕の背中の芽を写真に収めてる

僕の背中の樹は上へと真っ直ぐと伸びている

それは皆もそうで、細い樹がお遊戯で揺れてる

僕等はいつも元気に外を遊び回る

何処に居ても木漏れ日の下だった


ある男の子は樹の根元が曲がっていた

そんな人達は決まって性格が捻くれてた

両親が離婚して此所に来た女の子は

既に葉が紅葉だったり枯れたりしてた

そんな人達は決まって苦労人だった

母親には背中を良くみなさいと言われた

太く大きい人は偉い人で

細い人はちょっと貧しい人

胸辺りに生えてる人は芸術家気質

腰辺りに生えてる人はスポーツ選手向き

枝が多い人は神経が多感で

枝が少ない人はさっぱりしてる人

樹に止まる生き物

実が付いてるか

木肌から

その人がある程度分かるんだそうだ


お爺ちゃんの背中の樹は88°だった

お爺ちゃんは口癖に言う

「もう直俺は死ぬかもしれんな」と

僕はそれが嫌だとお爺ちゃんに抱き付いてた

だけど、お爺ちゃんは死んだ

背中の樹は90°だった

背中から真横に真っ直ぐと生えていた

葬儀屋は丁寧な穴を掘る

お爺ちゃんを蹲る姿勢にして埋める

お父さんの裾を僕はギュッと握っていた

「お爺ちゃんはこれからは樹として生きるんだ何百年もな」

そんなお父さんの背中の樹は36°だった

背中の樹の角度を見る度に、僕は少し不安だった

まだ1°まだ1°そう言い聞かせてた

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