夏月時 678

『夏』

太陽の下 私は背を向けて走る

遠くの陽炎は遠いままで 揺らめいてる

私は太陽の暑い視線を感じて振り向くと

少しばかり斜陽し黄昏が近付いてた

立ち止まっても 過ぎる事を拒むのは

私を若くさせる夏の仕業である




『梅雨』

シャツの色が水を吸い濃くなる

雨は汚れを洗い流さないのか

お気に入りの服は着られるのを拒んでる様

僕は高い所に登る

そこから交通する色とりどりの傘をみる

梅雨の時季 地上は色に覆われる


鳥はどこを飛んでいるのだろう

蝸牛は木々の影に歩いてく

蛙は繁栄の為に鳴いている

照る照る坊主は忌まわしい儀式の名残

僕はより一層濃くなった夜の

雨音を聞くのを好んでいた




『紫陽花』

このままの色で

そのままの形で

水滴を葉に乗せて

丸く茎を包む様に咲いていて


雨上がりの六月は

私を立ち止まらす

通り道となる

薄紅や薄い碧

空を伺う事など忘れさせた




『かき氷』

擦られた山を僕はシロップで味う

駄菓子屋の屋根の下

変わりの無い壁を見ながら

舌に感ずる冷たさも味う

父はビールをかけて味い

頭を痛そうに叩いている

僕は少しだけ間を置いて食べる

そうしてるから飲む事になるのに

いつもシロップ液が薄く底に残る




『アイス』

この季節にアイスは姿を消して行く

また出ては手がアイスへ運ばせる

私は彼を愛す事が出来るでしょうか

私は遠くへと出掛けた

喉が渇いてしまうアスファルトを歩き

ひっそりとした駄菓子屋で口にした時

本当にアイスを愛す事が出来た気がした

涼しい季節は夏だけに在る




『花火』

瞬きを無くすのは

茎の線を見て

花が音を立て咲く

鼓膜に余韻が残り

それが風に流されても

私はこの時ばかりは

空へ長く求めて見上げてる

私は手元の花火で

草の焼いた匂いを嗅ぐ

その匂いに酔わされて思うのは

星は誰が打ち上げたのだろう

感傷に浸りたく

線香花火に灯を灯す

人気の無い公園で




『海水浴』

噛めない砂浜

殺風景の朝

まだ涼しくも走らす

鴎は羽根休めの出来ぬ果てへ

忘れれたコーラは炭酸が死んでいる

萎んだまま浮く浮輪を

魚が潜り抜ける

波は休まず

約束の海水浴へと

浸水してく




『プール』

私を柔らかさに包んで

小宇宙へと酸素が持つまで導く

眼を閉じて空間を広げる

母の海を思い出す為

私は静かに泳ぐ

この動く音から声を探す

壁を見付けて私は眼を開けると

私は医者に抱かれていた

意味が分からぬと泣いてるのに

知らない母は嬉しそうに喜ぶ

プールの閉まりかけた夕方の出来事




『扇風機』

あなたはプロペラを回し首を振る

私は飛べそうにないと俯いている

僕の声を回しながら裂いてく

午前の電柱が導く空へと広げる


僕も飛べないが

飛ばし方を知っている

あなたの身体の内側まで覗く時

あなたは恥ずかしがって首を振る

日付が変わる頃に君を仕上げた

前よりも綺麗である肌を僕は撫でる


あなたの装置を指で動かす

乗りたての自転車の様に

何度も転びながら前へ飛ぼうとする

小屋に当たりそうになった時

あなたは空を高く翔んだ

そのまま昇りかける陽へと向かった

あなたをその後見たのは

宇宙調査隊が探索する最中に目撃した時で

ちゃんと飛べてますかと

僕は届かぬ空に思う




『蛍』

穏やかに流れる川へ

夜は私を手招きする

儚き命を蛍は灯す

緑の発光線を追う

私は此処に居ると

呼んでる事をしてるだろうか

重なる蛍の光は

私を霞ませる


翌日に蛍は草むらで死んでいた

私は明日だとしても

それを知らずに呼ぶ事をしない

亡骸は堕落した心に刺す水を加える




『風鈴』

ちりーん… ちりーん…

わたしをよいんになごませるのは

あのはながらのふうりんでございます

すずかしいかぜのとおるいっかいに

わたしはむぎちゃとすいかを

たたみのうえでしょくしてる

そうですね そうです

よいんにひたらすことばをだしたいです


ちりーん… ちりーん…

わたしをこわくさせるのはどなたです

かぜもねしずまるよなかに

まどもしめたのにふうりんをならすのは

どなたです

こわくてといれへゆけないではないですか

よいんにふるえがとまりませぬ

ねむれませぬ

そうですね そうです

ふるえることばをはっしたいものです


ちりーん…とな ちりーん…とな




『天の河』

星の道路を置き去りにされた僕は歩く

地上の星には興味がなく

僕は更に上の星を見上げて歩く

留置所まで着き

そこで煙草を吸う

灰は星屑になり地上を駆ける

僕はこの道に興味はない

一度の約束の為に此処を歩き

互いの時間を語り埋めていきたいのだ

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