アイドル

彼女はアイドル

教室にいても他のクラスの男子から

性の意識に溢れている目で

ガラス越しに見られている

彼女は階段で転ぶと他人とは違い皆が気を使ってくれる

そんなことがある度

保健室にタンカで乗せられて

運んでもらっている

忘れ物をしたって

仕事が忙しいからなと

先生が笑って許すんだ


彼女は別に苦労なんかしてないだろう

幸せだなと思っていた

そんなある夜に走りに行こうと思った

近所の公園に差し掛かったら

彼女がブランコに座っていた どうしたのかと尋ねたら

彼女は涙を流していた

君は何に涙を流しているんだいと聞いたら

普通になりたいと答えた

普通の何処が良いのさ

君は不自由じゃないじゃないかと言ったら

彼女は感情を剥き出しにして 全てが良いとは限らないわと怒鳴った

アイドルの普通は不安の塊だった


送りつけられる生爪や歯

宗教的なファンからの嫌がらせ

枕営業を誘う大人

活躍を嫉妬するだけ仲間

彼女は顔以外に痣だらけ


僕は彼女の憧れる普通を既に過ごしていて

それが良いのか悪いのか分からないけど

彼女が幸せになれるなら

僕みたいな凡人になればいいと言った

彼女はそれから普通になった

世間では新聞やニュースになって大騒ぎ

それから数日後にラストライブで彼女はアイドルを止めた


階段で転んだら皆にドジだなと笑われ

忘れ物をしたら先生に教科書で頭を叩かれる

僕は今までこの暮らしだったから

コレのどこが良いのか良く分からないが

彼女が前よりも笑顔が見せるのは確かだ

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