第7話 ともだち

「ソウヤ、どう・・・したの?なにか、あった?」

ネネが心配そうにこちらをのぞき込んできた。

今は定時訓練終わりに遊びに来たところだ。今日は追いかけっこをしていて2人で物陰に隠れたところだった。


「いや、ちょっと今日の鍛錬がうまくいかなかっただけだよ。」

実際、あの後の訓練ではろくに成果を出せなかった。

父は焦らなくてもいいと言ってくれたが集中できない自分に苛立ちを感じてもいた。


「うそ、だって今日のソウヤずっとこわい顔、してる。ぜったい、なにかあった。」

ずいっと迫ってくる彼女に思わず後ずさる。どうしたんだろう、やけに積極的だ。


「なんでも、・・・話して。わたしたち、ともだち・・・・・でしょ。」

ふんすっと鼻息荒く息巻く彼女に怖気づき、とっさにごまかす。


「なんでもないって。気のせいだよ。」

言った瞬間、しまったと思った。さっきまでキラキラしていたその瞳に傷ついた色が浮かぶ。

さっきまで使命感に燃えていたのに一気に猫耳がしおれ、その瞳を曇らせた。


「そう、だよね。わたし、・・・・・・まだそこまで、なかよくなかった、・・・・・よね。

もうすぐお別れだし、相談なんて、できない、・・・よね。」

キラッと水滴をこぼして走り去ろうとする彼女の腕をとっさに掴み、抱き寄せる。

迷いながらも後ろからささやく。


「ごめん。・・・・・ネネは大事な友達だよ。ちょっとカッコ悪いけど話、聞いてくれる。」


グスっと鼻を鳴らした彼女は涙にぬれた漆黒の瞳で僕を見上げ、うん、とうなずいた。


追いかけっこ中であることを思い出した僕たちはネネの隠蔽魔法に隠れて話をした。

途中何回かセツナたちが横を通ったが一切気づいた様子がなかった。高度な魔法なのにすごい技量だ。


ポツポツと言葉を探しながらとなりに腰掛けた彼女に語りかける。

種族魔法のこと、力持つ者の義務のこと、人を傷つけるのが怖いこと、前世のことを除いた今の悩みを、ネネはピンっと猫耳を立てて真剣に聞いてくれた。


「ごめんね。」

僕のたどたどしい、まとまっていない話を聞き終えると彼女はそうつぶやいた。


「どうして?」

「わたし、わがままだった。ソウヤたちは、・・・・・初めてできた友達で、うれしくて、・・・・・やりたかったこと全部やるんだ、って張り切っちゃった。」

そこで一旦言葉を切ると、僕の肩にもたれかかってくる。

肌触りの良い、彼女の猫耳が僕の頬を撫でた。


「ソウヤの、考えてることは、むつかしくて、・・・・・わたしには、よくわからないけど。

 ソウヤがケガしたら、・・・・・わたしは悲しい。新しい魔法が使えるようになったって、喜んでたら、・・・・・わたしもうれしい。それじゃ、ダメ?」


ネネの体温を感じながら、彼女のくれた言葉について考えていた。

少し、難しく考えすぎていたかもしれない。


僕の力が足りずにケガすればネネや幽紀たちは悲しむだろう。

新しい魔法を覚えたら父上や兄さんたちは喜んで褒めてくれるだろう。

そう、単純に考えてもいいのかもしれない。


前世の価値観が少し薄れた気がして寂しさを覚え、ネネの小さな体をギュッと抱きしめる。

一気に体温が上がり、あたふたと顔を赤くしていそうな彼女の耳元にそっとささやいた。

「ありがとう。」


彼女の返事は消え入るように小さくて聞き取れなかったけれど、僕は満足してさらに強く抱きしめた。







「ソウみっけー。あぁ~~~、ネネちゃんだっこしてる~~~。ずるーーーーい。」

いつの間にか隠蔽魔法が解けていたらしく、セツナに見つかると奴が叫び始めた。うるさいぞ。


「ネネちゃんは、ウチのなんだからね!はやくはなれて~~~。」

セツナがネネを強奪し、毛を逆立ててフシャーっと威嚇してくる。あいつ身体強化まで使いやがった!それに猫はお前が抱えてるネネの方だよ。


「な、にゃによ!?」

黙って近づき、デコピンを食らわせてやった。フギャっとうめいて涙目になる彼女を前にため息をつく。


「別に。・・・・・そろそろ帰るか。日も暮れそうだ。」

それだけ言うと急いで幽紀を探して歩き出した。

すぐに、湧き上がる衝動に身を任せて走り出す。

今更ながら、赤くなってきた顔を隠すかのように。

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