第5話 闇魔法

にぎやかな昼食を終えて一足早く鍛錬場にやってきた僕は連れ立ってきた兄に声をかけた。


紅夜コウヤ兄ィ、いつもの手合わせ、やろう!」

覚えたばかりの魔法を使ってみたくてしょうがなかった。


「いいよ、闇魔法やっと使えるようになったって喜んでいたね。闇魔法球でやろうか。」

しょうがないなぁと笑って兄が右手の上に魔法球を生成する。

こともなげに出されたことに対抗心を燃やされつつ、僕も右の手のひらを上に向け、覚えたての魔法を行使する。


闇球ダーク・ボール!」

僕のやつのが小さいな。もうちょっと大きく!


ムムっとちからを込めているとカウントが始まる。

「準備はいいかな?3秒でいくよ!3,2,1、発射ディスチャージ。」


「わわっ。で、発射ディスチャージ!」

球を大きくすることに集中していたせいで少しタイミングが遅れ、やや僕に近い位置で衝突する。


「う、うそぉ~!!」

拮抗することなく一瞬で兄の球に飲み込まれ、僕に当たると霧散した。

毎度のことながら兄の技術にくやしさしかない。


「あはは。まだ維持するだけだね~。もっと余裕が出れば威力も出そうだね~。」


暢気にそう評されて唇を尖らせる。

「やっと対抗できるようになったと思ったのにー。紅夜兄ィ強すぎいー。」


最近は僕の水球を兄の闇球に吸われることが多くなってきたため、対抗手段をようやく得ることができたと喜んでいたから余計ショックだった。

むくれていると近寄ってきた兄に頭をぐちゃぐちゃにかき混ぜられた。


蒼夜ソウヤは僕が同い年くらいのころより魔法うまいよ。まだ負ける気はないけどそのうち追い抜かれるかもなあ。一緒に練習しようね。」


「・・・・・紅夜兄ぃが全力を出さないといけないくらい、早く強くなるよ。」

別に僕はどうしても勝ちたいわけではなかった。早く対等になりたかっただけなんだ。

精神的には年下の優しい兄が僕は大好きだった。


「今でもそこそこちから出してるけど。・・・・・そうだね、そうしたら全力で試合しようか。」


「約束だよ?」

「約束するよ。」

僕らは手を握り合って笑いあった。







「闇魔法発動のコツは掴んだみたいだし、ちょっと応用していこうか。」

午後の部が始まり、紅夜兄さんと幽那ユウナさんに一通りの指示を出したハゼリアさんは僕と幽紀ユウキにそう言った。


「これから教える魔法は武器生成アームズ・クリエイションと言って実態のある武器を作り出す魔法だ。」

武器生成、とつぶやいてその右手に闇魔法で形作られた短剣を実体化させる。



おぉ、と僕と幽紀が感嘆の声を漏らし、輝いた眼で見つめていると説明が続く。

「闇属性は他の属性を混ぜると実体化する特徴がある。爆発する光属性と対になる部分だね。もちろん本物の武器には耐久性などいくつか劣る部分もあるけど相手に合わせて武器を変えられるメリットは計り知れない。」

短剣が消え、槍や斧などいくつか実演してくれる。


「あ、あの!おじさんは神官ですよね?どうしてそんなに武器が使えるんですか?」

幽紀の質問にそういえば、と僕も思い出す。セツナのおじさん、神官だった。


「神殿には確かに治癒魔法や後方支援しかできない人もいるけど、私は実戦部隊の所属でね。実戦にも出たことがある。

ブン、と斧を振り、ニコっと笑う。

「今の戦争は長く続いているから教会も人員不足でね。何でもできないといけないのさ。」


へぇ~と幽紀が感心しているのでジトっと睨む。お前の叔父さんだろうに。


「キミたちも戦地に行くこともあるかもしれないし、備えは必要だ。さあ、練習を始めよう。」

「「はい!」」

勢よく揃った返事を合図に訓練が始まった。



「闇魔法を実体化させるには一定割合で他の属性を混ぜる必要がある。」

説明を聞きながら闇球に少しずつ水魔法を流し込む。


「その割合は自分で見つけるしかない。何回もチャレンジして覚えるんだ。」


「ああ~~~。」

闇球がその許容量を超えて霧散する。闇属性魔法は一定量までは他の魔法を吸収するけど、ラインを超えると消えるみたいだ。初めて見た。


「さあ、どんどんやろう!時間はたっぷりあるよ。」

ちょうど太陽が一番高いところにある時間帯だ。

僕は空を見上げてため息をつくと次の練習をするために新しい闇球を手に平に浮かべた。








「っというわけで延々練習してたんだけどぜんぜんうまくいかなかったんだ。」

夕方になり、解放された僕らはネネに会いに行った。今日は何してたの?と聞かれたので幽紀と合わせて愚痴を吐き出していたところだ。

セツナは頭からプスプス煙を出していた。


「うう~、むずかしすぎるよぉ~。そういえばネネちゃんはどういう魔法が使えるの?」

「わたし・・・・・は、闇属性しか、使えないから。こういうの。」

幽紀の問いかけに実際に展開して答えている。


黒い球が6個ネネの周りに等間隔で浮かび、それらは回転しながら球から花、そして星へと様々に形を変えていた。



「ええ~。すごいすごい。ボクよりうまいよ!これだれかに教わったの~?」

「孤児院の・・・巫女さまに、ちょっと。あとは空いてる時間に少しずつ。ほかにやることなかった、から。」


「これは完全に僕よりうまいな。ネネすごい!もしかして実体化もできる?」


ほめられたネネは頬を染めて照れている。尻尾も嬉しそうにブンブン揺れていた。

「え、えっとこれくらい、なら。」


そう言って出されたのは3つの花だった。僕らの手のひらに順番に乗せられる。

おおー、と幽紀が感嘆しセツナが涙目で抱き着く。

セツナがネネに抱き着いている様を片目で見つつ、手のひらの物体を観察する。


10秒程度で霧散したそれに触発されて考察が進む。


「純粋な闇属性だけで固体化するなら、・・・・・もしかして必要な他属性の量ってかなり少ないのか?」

ブツブツ言っているとハッと幽紀がこちらを向く。


「そうだよ!ソウくん。ギリギリまでまぜこんじゃダメなんだよ!もっとうすく覆うくらいかも。」

新たな発見にテンションがあがってイエーイっとハイタッチする。

そのままの勢いでネネに抱き着く。間で潰れたセツナがぐぇっとうめいた。


「ありがとう。ネネ。なんかわかったかも。」

突然の出来事に対応できず、固まって猫耳で抗議してくるも、さらに横から幽紀が参戦した。


「そうだよ、ネネちゃん!きみのおかげだよ~。」

ギュッと加わったちからに落ち着いてきたのかパタパタから猫耳の動きがすりすりに変わる。



「え、えっと。やくにたてたなら、うれしい。」

照れるネネがとてもかわいかった。


「ネネのおかげだ。」

「ネネちゃんのおかげだよ~。」


ふふっと笑いあい、さらにギュッとする。

幸せな空気に包まれた。



「ぐ、ぐるじぃ~。みんな、ウチのことわすれてるでしょお~。」

セツナの悲鳴におっと、と離れる。

うらみがましくこちらを見つめる彼女に悪い悪いと手を合わせた。


「セツナ、だいじょうぶ?」

心配そうに、ちょっと笑って声をかけたネネをセツナが涙目で睨みつけた。



「た゛い゛しょ゛ーぶ゛しゃ゛な゛い゛よ゛お゛~~~。」


セツナの叫び声に僕らの笑い声がこだました。

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