第3話 黒猫少女

昼食を食べると(食べたことのない肉と魚だった。現地の魔獣らしい。)着替えてから町に繰り出した。

龍人族の民族衣装は文様の描かれた和服のような衣装だ。


親からもらったこづかいを握りしめ、露店や商店を冷やかす。


「ねぇねぇ、あれキレー。」

光モノに目がないセツナが目をキラキラさせて店に並べられたアクセサリーを指さす。

この辺は鉱物採掘が盛んなため、魔晶石を加工した商品が多かった。


「んーちょっと高いね。でもデザインもいいし、付与されてる魔法も身体強化補助で悪くない。セツナはセンスがいいね。」

紅夜コウヤ兄さんがセツナのさらさらした金髪を撫でてなだめる。そのままさりげなく店の前から引き離されるが、本人は未練たらしくその瞳に似たローズピンクの石を見つめて唸っていた。


「なぁ、ユウキはどれがいいと思った?」

僕はその様子を遠巻きに眺めていた友人に声をかける。


彼はちょっと困ったように眉を下げ

「えっと、ボクはアクセサリーにそんなにすきじゃないから・・・・。

 でもこうかはやみまほう強化のあれとかいいかも。やみまほうむずかしいから。」

と上のほうに陳列されていた光を吸い込むような黒い石のついた指輪を指さした。


「闇魔法むずかしいよね~。水とか簡単なのに。」

同意して僕は周囲に水球を2つほど浮かべてくるくる動かす。

僕は水属性の適正が大きく、特に水球の操作は小さいころから訓練しているのでお手の物だ。


幽紀ユウキは僕と同じく水が、セツナは火が得意でよく3人で訓練や模擬戦をしたりしている。

「そ、そんなかんたんにつかってるのはソウくんだけだよ~。ボクはけっこう集中してこれくらいで・・・」

セツナほど執着のない僕らはそのまま魔法の話などをしながら先行する紅夜兄と幽那ユウナさんたちの後をゆっくりついていった。


「あれおいしそー。」「こーら。さっき食べたばかりでしょ。」

「これすっごい。」「さっきも似たようなものあったよ。」


好奇心いっぱいにうろちょろするセツナを兄たちが連れ戻すのを繰り返しているとどうやらマウラの町の中心部に着いたようだった。

心なしか店の造りが立派になり、人も増えてきたようだ。


町の名物である温泉が噴き出す噴水に近づいたあたりでそれまで兄さんたちにかまわれていたセツナがこちらにやってきて僕の袖を引く。


指さす先には噴水のそばに腰掛ける僕らと同じくらいの年代の少女が一人ポツンと佇んでいた。

「あの子がどうしたの?・・・・・っ!?」

猫族だろうか。黒猫の少女を見つめた時、その周囲に大量の闇属性の魔素が具現化されたように見えて身構える。魔素の具現化は基本的に大魔法を行使する直前に起きる現象で平時にはまず起こらない。


「あの子、・・・・・一人みたいだし、ウチたちと遊んでくれないかな~。」

ちょっと心配そうにそしてちょっと期待したように彼女は提案する。

昔、僕が近所になじめなかった時期も彼女はそうやって声をかけて来たのだ。

  「ねぇ、キミいまなにしてるの~。ウチたちといっしょにあそばない?」


過去を思い出し、少し悩みながら見ていると件の少女と目が合った。

そのまま視線をそらさないでいると少し不思議そうにポヤっとした様子で首をかしげる。

その周囲には先ほど見たものが勘違いであるかのように何もない空間が広がっていた。


不意に止める間もなく、セツナが少女に向けて走りだした。しかたなく、僕と幽紀も後を追う。


「ウチ、セツナ!おうとからきたの!あなたはお名前なんてゆーの?」

少女は驚いたように眠たそうな瞳をパチクリさせて、助けを求めるようにこちらを見た。

僕は安心させようと笑顔でうなずく。


「わた、しは、・・・・・・ネネ。すんで、るのは、・・・ここ。」


「そう!ネネ!ウチらいまからトモダチだよ!いっしょにあそぼー☆」

セツナがうれしそうにネネの腕をとり、ブンブン振り回す。

ネネはちょっと困ったような表情をしていたが、耳がうれしそうにひょこひょこ動いていた。







その後、遊びながら話を聞いたところ、ネネはこの地にある黒天教こくてんきょうの孤児院に住んでいるらしい。

今日は安息日なので暇つぶしにフラフラしていたようだ。


ネネはおとなしい性質らしく、セツナに振り回されるのを喜びつつも少し無理をしているみたいだった。

あまり表情にはでないが、耳や尻尾を見ているとなんとなく察せられるので、度々僕が庇うことになった。幽紀は基本セツナに全面降伏状態だし、気が付いたら兄たちとはぐれていたので他にやる人がいなかったのだ。


結果的に僕のほうになつくことになり、日が暮れるころには基本的に僕のそばにいるようになったのでセツナはちょっと不服そうだった。


「うぅ~、ウチが声かけたのに~。ネネちゃん!なんでソウヤなの~。」

不満そうにセツナが唸る。


ネネは僕を盾にするように隠れてヒシっと服をつかむ。ちょっと身長の低い彼女の耳が僕の頭に抗議するようにペシペシ当たる。抗議するのはセツナにだろうに。

「セツナ、・・・元気すぎる。・・・・・・・ソウヤの、ほうが、やさしい。」


「なんでぇぇぇ~。ウチだってやさしいよぉぉぉ~。」

セツナの叫びに僕らの笑い声がこだまする。後ろでネネもクスクス笑ってるみたいだ。

なんにせよ仲良くなれてよかった。





「また、あそぼーね。明日もあそべる?」

「おしごとある、から、夕方から、…なら。」


ニコニコとしたセツナとちょっとうれしそうに耳と尻尾を動かすネネが握手を交わしている。


「僕らも明日は用事があるからきっと遊べるのは夕方からだよ。」

「じゃーちょおどいいね!明日もあそぼー☆」

僕が口をはさむとテンションのあがったセツナが手をブンブン振り出し、ネネが痛そうだったので慌てて止める。


3人でバイバイ、と笑顔で手を振りながら分かれると宿に向かって歩き出した。


「楽しかったねー。」

「う、うん。楽しかった。セッちゃんは初めて会う人となかよくなるの早すぎるよぉ~。」

「ホントにな。公園で僕に声かけて来た時のこと思い出した。」


3人でわいわいしながら歩いているとすぐに兄たちが合流した。

「あら、3人ともとても楽しそうね。なにかいいことあった?」

「えっとねー。ネネちゃんっていう子とトモダチになって~。」


セツナが幽那さんにかけよって行って今日会ったことを報告している。


僕は幽紀と顔を見合わせてお互いにクスッと笑うと突然相方を奪われた紅夜兄さんの所に突撃しに行き、そのまま今日の冒険について話し始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る