第21話 うちは怒った


 うちはしばらく放心してて戦士さんに手を引かれて呆然と歩いとったけど、そのうち自失から戻ってくるにつれて、沸々と強い怒りが湧いて出てきた。

 うちはあの象魔いうやつが許されへんかった。あいつはゴミみたいに人の命を奪いおった。どんな風に殺そうが結果は一緒や。それはわかってる。うちも魔物を殺した。カバさんの喉を切り裂いた。息子さんだって自称・八岐大蛇を殺した。うちや息子さんとあの象いうやつは大差ないんかもしれへん。

 でも許されへんかった。

 あいつはゴミみたいに人間を殺したんや。

 それどころか、自分の企業で働くカバさんを使い潰したんや!

 絶対倒したる思う。

 耳から手ぇツッコんで奥歯がたがた言わしたる。

 首洗って待っとけよ。




 うちらはラ・ルミアに乗って空から、森の中、四つの岩の中央にある、ごっつい木の近くに降り立つ。なんやすごい魔法力を感じる。

「なんですか、この樹」

「螺命の聖樹」

 息子さんがさらっと言うた。

木によじ登って、魔法力が一番濃い葉っぱを一枚だけ千切ってとってきた。

聖樹の葉っぱを手に入れる。ルミアの魔法力が込められたこの葉っぱは、世界で一番強力な回復のアイテムらしい。

 それからまたラ・ルミアで北を目指す。

 不死鳥の翼の上で戦士さんが「君はつよくなったね。もう力だって僕と変わらないんじゃないかな」と言った。「そんなことないですよ。試してみます?」うちは戦士さんの手を握る。硬くて筋ばった男の人の手。ちょっときゅんとくる。うちらは腕相撲をやってみる。「あれ?」そんで、存外あっさりとうちが勝った。

「神殿での転職後ってのは前の職業のステを一部引き継いでっからな。そいつが戦士なのに魔法力が使えるのもその影響だ。レベルが変わらんなら転職したやつのがつえーぞ」

 息子さんがフォローしてくれた。

「そ、そういうことらしいです」

「…………」

 戦士さんはそのあと、うちと一言も口きいてくれんかった。

 うちらは山々に囲まれた城に入る。

 城のなかにはドラゴンがおって、一瞬身構えたけど息子さんが“戦わんでええ”いうふうにうちらを手で制した。

 竜の王女やと名乗ったそのドラゴンは「閃光の玉」をくれた。

 そのあと「疲れました」とだけ言うてすぐ丸くなって眠りについた。

「……」

 うちらは城を出て、今度は南を目指す。

 魔王城の隣にあったちっさい洞窟の中に入っていく。

 すると、どでかい落とし穴があいとった。

 底が見えへん。

「息子さん、もしかしますけど」

 おそるおそる振り返ったうちを、息子さんは笑顔で穴の中にけり落とした。


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