第20話 どうなってしまうんやー!


 うちらは酒場のあった一番最初の国まで戻ってくる。

 凱旋してくる。住民が歓迎してくれるけど、うちは明るい気分にはなられへんかった。

 ブラック企業に勤めるカバさんを屠った感触が、いまもこの手に残ってる。ごっつう嫌な感触やった。でもうちは戦士になってこの感触を知れてよかったんやないかと思う。

 魔法使いとして遠くから呪文で魔物を焼き殺すのがふつうになってしもたら、うちはものすご残酷な人間になってしもてたんちゃうやろか。剣を持って命終わらしたことを、あの肉を切り裂く嫌な感触をうちはずっと覚えとく。それが人間の世界への侵略を目論んでる、ブラック企業勤めのカバさんであっても、命いうもんは貴いもんで、軽々に奪ったらあかんもんなんやろうといまはおもう。

 うちらは王城に呼ばれて玉座の間に向かう。

 王様が楽隊を用意して、楽隊がトランペットを持ち上げて口元にあてる。

 そのときやった。

 突然、玉座の間が濃い霧と邪悪な魔法力に包まれた。

「なんや」

 息子さんがうちを引き寄せた。

 !?

 目の前に稲光が走った。

 楽隊が稲妻に撃たれて黒焦げになる。

 なんでや。なんで急に雷落ちたんや!? トランペットが金属やからか? 金属やからか!?

「よろこびのひとときにすこしばかりおどろかせてしまったようだ」

 霧が連なって顔色の悪い、角のついた帽子をかぶったおっちゃんの姿になる。うちらがさっき倒した魔王を上回る凄まじい力を感じる。

 なんや、こいつ、恐y。

 おっちゃんは「象魔」やていう。「闇の世界を支配する真の魔王」て名乗る。「象魔」はすべてを滅ぼし、やがてこの光の世界をも闇で覆い尽くすていう。そなたらの苦しみは私の喜び。さぁ、悩み、苦しむがいい、そんなふうに言い残して霧は形を失って崩れた。

 なんてことや。

 せっかく魔王を倒して世界が平和になったおもたのに、こんな怖いやつが出てきて、いったい世界はどうなってしまうんや! どうなって、しまうんやー!!!


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